1993年に発表した『The Shipping News』（邦訳『港湾ニュース』で日本でも話題を呼んだ）でシカゴトリビューンズ・ハートランド賞、アイリッシュタイムズインターナショナルフィクション賞、ナショナルブックアワード、そしてピューリッツァー賞を受賞するなどまさに現在活躍中の女流作家アニー・プルーによる短編集。ジョン・アップダイクによってベスト・ストーリーズ・オブ・センチュリーに、ギャリソン・ケラーによっては「The Best American Short Stories 1998」に選ばれた1篇、O・ヘンリー・ショート・ストーリー集に収載された1篇などを含む、アメリカのワイオミング州を舞台とする11篇。

   会話文がまったくなく、ナラティブのみで構成される「Job History」では、あるワイオミング州の男（元牧場主）の半生の記録が淡々とつづられる。次々と仕事を変えるが失敗ばかり、あげく息子には去られ妻も亡くす。しかし、それまで使うことのなかった「肉料理」の腕と、戻ってきた息子の趣味とを両立させて、「ステーキとバイクの店」を始めるところで物語は終わっている。

   市井の人々のときに悲惨とさえいえる暮らしを、あくまでも叙情性を拝した写実主義で淡々と描く作風は収載11篇に共通している。ちなみにこれは、先に高い評価を受けた『The Shipping News』にも通じるトーンだ。（石井節子）