「野球人」の貧しさ
★★★★☆
文章の論理性などで若干気になるところがあり、4ツ星とさせていただきましたが、高校球界の裏側を描いた決定版といえるでしょう。
野球留学や裏金問題の大元であるボーイズリーグや強豪私立校などの実情を丁寧な取材でつまびらかにしています。明徳進学が濃厚だったダルビッシュが東北高に進んだ経緯、駒大苫小牧・香田元監督の苦労や不祥事の裏話なども書かれており、説得力とエンターテインメント性に富んでいます。
著者は善玉、悪玉という分かりやすい二元論に陥ることなく、高校を含めた日本球界全体の実態を淡々とした筆致で書いています。意図したわけではないでしょうが“野球人”たちの狭隘な視野が浮き彫りになっていて、彼らが指導している日本にはなぜ文武両道が根付かないのかもわかる気がします。
著者は最後にこう記します。
「熱しやすく冷めやすい日本人の体質の中で、この問題が忘れ去られず、どのように展開していくのかは誰にも分からない。『人の噂も七十五日』ということわざが、私の耳に響いてきた。」
2007年の西武裏金問題で火がついた特待生問題ですが、その後、継続的に改善策がとられている様子はありません。著者の予感は皮肉にも正しかったのです。
どの世界でもほじくり出せばいろんなことが出てくる
★★★★☆
週刊誌ネタの総集編といった感じで、お手軽に読む本。中学生の有望選手が、どのように進路を決めていくのか、また、どんな争奪戦が繰り広げられているのかがよくわかった。
一番印象に残っているのが、茨城県のある(弱小)定時制高校が硬式野球にこだわる理由と言う話である。心を打たれた。
さほどの汚さを感じない
★★★★☆
主にボーイスリーグから高校野球にいたる、選手の仲介ビジネスに焦点をあてて、取材した書。
もっと、裏のドロドロした実態を、これでもかこれでもか、と見せるのかと予想していたのですが、違いました。
著者自身、そういうことはあって当たり前のこと、と考えているか、あるいは、読んだ私の方に、それもやむをえない、という考えがあるせいかもしれません。
私は昔、甲子園野球というものが、神聖なアマチュアの大会であると信じていました。
しかし、野球留学など、セミプロ的に行われていることを知り、見る気がしなくなりました。
この本を読んで、また少し考えが変わりました。
問題なのは、甲子園野球を「アマチュアの頂点」だの「さわやかな高校球児たちの祭典」だのとはやし立てていることではないでしょうか。
むしろ、「プロ野球マイナーリーグ全国大会」「プロ野球高校リーグ甲子園大会」と謳えばよいのです。
考えてもみてください。
勉強のできる子を持つ親は、子を塾に通わせ、私立の名門高校に入れ、有名大学を目指すでしょう。
特待生として入学金免除、学費免除、という特典もあるかもしれません。無利子の奨学金も借りられるでしょう。世紀の天才といわれるような子供なら、企業がスポンサーにつくかもしれません。
野球だって、同じと考えたらいいのです。
野球の上手な子供を持つ親は、ボーイズリーグという野球塾に、子供を通わせます。
ボーイズリーグの監督が高校入学の面倒をみてくれます。学費の免除もあるでしょう。生活費を出してくれるところもあるでしょう。
実際、現在プロ野球ナンバーワンの投手が、そんな道を歩きました。
それは責めるべきことでしょうか。
勉強にしろ、野球にしろ、自分の得意分野で、せいいっぱい人生を切り開いている、と見ることはできないでしょうか。
いろいろ、考えさせられた本でした。
野球ーすーるならこういう具合に、するっ!
★★★★★
高野連と日本のプロ野球が仲の悪い要因をご存知だろうか?ソレもこの話の一端。最近でも問題になった金銭や物品のやりとりや怪しい隠れた関係はなぜそのようなカタチなのか?アマチュアがプロに野球が教われない現状。ドラフトの準備と裏側。当事者達の言葉を聴いて野球会の危うさを知ろう。見ざる聴かざるでは状況は好転しない。
悪人と善人が共存する不思議な世界
★★★★☆
野球留学、特待生問題などで「清く正しく」というイメージが失墜した高校野球。うわさやゴシップ的に語られてきた、その特待制度の実態や金をもらって高校と中学生を結びつける「ブローカー」の存在を明らかにした。これはという生徒に「パンツ一枚で来れば後は面倒を見る」と豪語する高校や、学校選びの際には拝み倒して、後は知らん顔の監督など、教育とは思えない、高校野球の醜い実態をつづる。著者も示唆しているが、引退後きちんとした職業指導を受けられず、野球で生きるしかない元プロ選手が、「プロ」の夢をえさにして、やや技術の劣る子供たちを釣っている。きちんとした倫理、職業指導が必要だと感じた。
本書は高校野球の暗部をえぐる一方で、青森・光星学院や鹿児島・神村学園など急速に力をつけている学校を取材し、高校野球を通じた人間教育の美しさも書いた。明徳の馬渕監督や駒苫の香田監督など、ヒールイメージが定着した名監督にも取材し、そうした実像が、いかに作り上げられたもので、彼らが休みも金も惜しまず献身的な指導で少年たちを全国へ導いてきたかを示した。プロもそうなのだろうが、アマ野球には、子供たちを利用して金づるにする悪人と、子供たちに夢を与えたいという献身的な大人とが持ちつ持たれつの不思議な共存をしていて、病根の深さを感じた。
いい話、悪い話とも、読ませる内容で楽しめた。