日本の浮世絵版画や絵画、工芸品が19・20世紀のヨーロッパ美術に大きな影響を与えたことは、よく知られています。ジャポニスムとは、本来そのようなヨーロッパ美術史の問題なのですが、しかしそれはまた日本美術史の問題でもあることを強く認識させてくれる好著です。ジャポニスムの中で形成された日本美術観は、まちがいなく日本人自身の日本美術の見方へと還流しているようで、この異文化遭遇の現象がはらむ意義は実に大きいといえるでしょう。現在の研究の達成として読まれるべき力作で、ジャポニスム学会編『ジャポニスム入門』(思文閣出版、2000年)と併読されるのもよいと思います。
第1章「ジャポニスムとは何か」、第2章「ジャポニスムと自然主義」を特に興味深く読みました。クリムトと日本の意匠との関係について具体的な指摘がされる第7章も楽しめます。文章が非常に論理的で明快なのに感嘆しますし、装丁もまた美しく仕上がっています。