「レオナルド・ダ・ヴィンチの方法」、「カイエ」等の作品群からもわかるとおりポール・ヴァレリーは文学から哲学、科学まで広範な範囲について勉強していた20世紀の万能人である。
そんな彼が25歳のときに、この本の中心となっている「ムッシュー・テストと劇場で」の主要部が書かれ、また彼の成長とともにこの作品の理解への補助線として書かれた作品群が「ムッシュー・テストと劇場で」とともにわかりやすい訳になってこの本にまとめられている。
内容はまさに彼が若いときに心の内面に作り出した、正確さや可能性、また理性の権化であるムッシュー・テスト氏が文学という形をとって彼の存在意味が思考実験される。テスト氏は作者の分身であるとともにその彼の話をする「わたし」も作者の分身と思われ、これを読んだ私は彼らの静かな戦いが繰り広げられたのを感じた。
これは現代の科学者でさえも読む価値のある文学という形をとった理性への反撃書である。