波乱に富んだ主人公の人生の中でも、一番印象に残ったのは悲惨な少年期でした。美しい母親と優しい乳母に囲まれた平和な暮らしが、母親の再婚により一転してしまいます。いつの時代も、身勝手な大人の犠牲になるのは子供達で、私達の身近にも十分起こりえることなのかもしれません。事実、現代でも児童虐待のニュースは毎日のように報道され、深刻な社会問題となっているからです。
この物語には、その他いくつかの家族が登場し、各家庭ごとに個性豊かですが、特に忘れられないのがデイヴィッドの乳母の兄ペゴティーの家族でした。家族といっても、実は、命を落とした漁師仲間の妻や子供など、全く血の繋がりの無い者同士と暮らしています。それなのに、その信頼関係と絆は実の家族以上に強く、主人公一家とあまりに対照的でした。デイヴィッドの孤独感を最初に和らげてくれたのもペゴティーだったと思います。そして、人生で一番大切なものを教えてくれる人でした。
多感な青年期を迎えると恋の悩みが加わりますが、相変わらずデイヴィッドの境遇は浮き沈みが激しくハラハラドキドキ。登場人物の一人となり、主人公と共に半生を生きたような気分で、長編小説の醍醐味をたっぷり満喫することが出来ました。