実に実に、これは隠れた名作なのです。
★★★★★
乱歩生誕百年を迎えた平成六年頃から、乱歩作品に欠かせないフェティシズムに主題を置いた映画が相次いで作られました。
中でも名実共に傑作の呼び声高いのは、やはり名匠・実相寺昭雄監督による『屋根裏の散歩者』『D坂の殺人事件』と言うところで、
これは、このレビューをチェックしている方なら、もう当然にご承知のことでしょう。
とは言え、内容がフェティシズム・・・上記の作品ですら上映規模が小さかったのは無理のないところです。
ましてや、本作『人間椅子』は、極々ひっそりと上映されていたので、ご存じない方も多いのでは。
しかし、本作は実に名作です。
乱歩作品におけるフェティシズム、特に乱歩言うところの「触感芸術論」の極致とも言える名作短編『人間椅子』の世界観を崩す事なく、
かつ原作よりも一歩深く掘り下げ、主人公の女性(演:清水美砂)が病的なまでの潔癖性から、
視覚以外の全身で感じる触感の世界に目覚め溺れ込んでいく様を丁寧に、幻想的に描いています。
絵も綺麗で、構図を始め、衣装やセットなどの美術も奇をてらう事なく、大正・昭和モダニズムを見事に真面目に再現しています。
乱歩原作の映画としては珍しいハッピーエンドに、見終わった後の気分も極めて爽やかです。
小品ながらバランスよくまとまった、まさに隠れた名作だと断言します。乱歩ファンなら見逃せません。是非一見を。