縄張りや見取り図の分析と調査結果の解説が素晴らしい
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「城が民衆の避難場所のために開放されていたとなると、これまでの城の概念は再考の余地があり、当然城域についても広範囲に遺構を求めてゆく必要がある」。
タイトルと副題通りの本。なんといっても、北条氏照が関係する城の遺構を丹念に調査した結果がなかなか凄い。特に、詳細な縄張りや地図には目を見張るものがある。さらに、さまざまな文献も合わせて考察を行い、当時の大名と土豪と百姓の関係を整理して、同時に戦国時代の城の役割や実際の戦いの姿についても明らかにしている。
戦乱に巻き込まれる可能性のある村々は、緊急避難用の城を持っていた。そして、いざとなれば貴重品を地面に埋めた上で城に逃げた。また、大名の城も、住民の避難用として外郭側に広い地域を設けていた。ただし、籠城は過酷で、食料不足や疫病の蔓延や井戸枯れにも見舞われ、戦いよりも多くの命が失われることもあったという。高い場所には見張り用の城が設けられることもあったし、険しい峠は防塁によって要塞化された。
また、戦さについては、食料や生けどりにした人の売買や略奪を目的とした公共事業としての役割もあった。特に、農家の次男や三男は農家の中では隷属としての地位だったので、戦争での稼ぎを狙った。
また、村々は独立色が強く、大名といえども村の細かいところまで口をはさむのは難しかった。検知も大名が一方的に行えたのではなく、誰を兵として出すかも村で決めた。厳しい掟がある一方で結束力も強い。また、土豪が耕作地の保障と引き換えに従軍の義務を負い、一般の百姓が雑兵としてそれに従った。
このような実態は、北条家も武田家もそれ以外の戦国大名でも似たようなものであったようだ。ただし、織田信長や豊臣秀吉は、天下統一に向けて常備軍を整備していった。
綿密な実地調査と文献を吟味した結果を融合させ、戦国時代の実像に迫っている。大変見事な日本の中世史に関する解説書である。
フィールドワークの集大成の名著
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この書は中田正光氏の長年のフィールドワークのすべてを集大成した名著である。
そこでは、歴史の現場をすべて自分の足で歩き、そこから文献を読み直し、独自の視点から研究を積み重ねてきたまったく新しい戦国論が展開されている。
それは、戦国時代を生きる民衆の視点から見た歴史であり、それだけに現実に生きる人間のぬくもりと重みが感じられる。
戦国の民衆は合戦時には何をしたのか、どこに逃げたのか、戦国大名たちは彼らをどう守ったのか?
籠城において食べ物はどうしたのか?城内で発生する糞尿の処理はどうしたのか?蔓延する疫病とはどう戦ったのか?
城に入れない民衆はどうやって合戦に対処したのか?村人が独自に作った城とはどういうものなのか?
国境における合戦の真の実態は?
この書ではそんな今まで語られてこなかった多くの謎に中田氏自身の描く精緻な縄張図を豊富に駆使して答えてくれる。
この書を読んでこれまでの戦国感が一変する方は多いことだろう。
戦国フアンのみならず一度は読んでおく価値のある本であると思う。