カーの諸作の中でも上位に入る作品
★★★★☆
本作品は、1940年発表の作品で、カーター・ディクスン名義の第14作にあたります。
第二次世界大戦下、商船エドワーディック号は、ドイツの潜水艦による襲撃に怯えながら、ニューヨークを出港し、イギリスへと向かっていた。
軍需品輸送を目的とした航行だったが、船内にはヘンリ・メリヴェール卿を含む九人の乗客が乗っていた。
やがて乗客の一人、エステル・ジア・ベイ夫人の刺殺死体が船室で発見される。
着衣には犯人のものと思われる血染めの指紋があったため、乗客・乗員すべての指紋を採取し照合したが、誰のものとも一致しない…。
いつ潜水艦から攻撃を受けるか分からないという、緊迫した状態のもと、船内で進められる捜索は、スリリングな場面もあり、割合と起伏に富んだ物語展開となっていますが、そのトリックや真犯人は、正直なところ、あまり意外性のあるものではありませんでした。
しかしながら、この作品を高く評価したくなるのは、その風変わりな題名にあります。
「乗客は九人。そのうちの一人の死によって、もうひとりの人物が船内にいるらしいということになった。それならば、乗客は十人だ。」
−−といった意味の題名ですが、読み終えてみると、なぜ作者がこのような題名を付けたのか、そこに込められた思いがけない策略に、読者は深く納得させられるはずです。
カーの諸作の中でも恐らく上位に入るのではないかと思われる本作品ですが、かつての探偵雑誌「宝石」に昭和32年に掲載されたのみでずっと入手困難であったそうです。
本書の刊行により容易に入手でき、しかも読みやすい新訳で本作品に臨むことのできる現代の読者は、私を含め、大変幸福だと言えるのではないでしょうか。
題名の付け方の妙に感心 !
★★★★☆
第二次世界大戦中、ニューヨークからイギリスに向かう客船兼爆薬輸送船の中で起こった不可解な殺人事件を偶々乗り合わせたH.M.卿が解くという物語。カーの作品で船という巨大な密室の中の殺人を扱ったものでは「盲目の理髪師」が有名だが、そのような狂騒性はない。その代り、時代設定に合わせ、船は灯火管制下、即ち夜は真暗闇で殺人には打って付け。乗客には軍関係者が多く、スパイが混じっている事も示唆される。そして最大の謎は、第一被害者の婦人の遺体に残された指紋が乗客・乗務員の誰とも一致しない点。また、乗客数はH.M.卿を含め9人なのだが、題名(原題の直訳)の意味する所は ?
乗客全員に配られる救命胴衣とガスマスク。事件と並行して乗客を襲う敵の襲撃の恐怖。その中で起きる第二の被害者はフランス軍人だが、自殺の可能性もあると共に、スパイかつ第一の殺人の犯人である可能性もある。限られた人数の中で、話の錯綜のさせ方が相変わらず上手い。そして、魚雷接近の警報ベルが鳴り...。
指紋の解決はやや平凡だが、題名の付け方の妙には感心した。全体構成に破綻がなく、安心して楽しめる。「爬虫類館の殺人」と同様、戦時中という状況を巧みに利用しているのも印象的。これまで存在すら知らなかったが、カーの作品中でも上位に入るのではないか。
従来概念が通用しない作品。
★★★★★
目に映る事実では
通用しない作品です。
犯人は意外性はあまり感じないものの
手法がとてつもなく大胆です。
なぜならば、到底思いつかないでしょうし
まさか有力な手段すら
犯人は打ち砕くようなことをするのですから。
特に有力手段を欺いた手法は
必見であります。
そしてさらに珍しさを助長するのは
あのH・M卿がなんと狙われるのです。
しかも後ろからがつんと。
探偵役が狙われてしまう
貴重な作品です。
もちろん彼のドタバタ場面もあるので
お見逃しなく。
ようやく読める
★★★★☆
昔雑誌に掲載されただけで、本になったことがなかったこの作品が
読めるようになっています
事件は単純ですが
船の中という状況を良くいかしていると思います
Uボート
★★★★☆
トリックは江戸川乱歩が短編で使ったことがあるもの
それ一つをメインに持ってきて
長編に仕立て上げただけ合って
ちょっと無理があるんだけどね
戦時中のドイツの潜水艦攻撃におびえながら
航行する船の中での緊迫した事件という設定を
うまく生かした作品