涙が出た
★★★★★
知り合いが高尾山をぶち抜いてトンネルを作る無謀な計画に反対する市民団体に縁があって、その会が『虔十の会』という会だった。森を守ろう、というとってもまともな思考の会に思えた。山をぶち抜いてトンネルなど作ったら自然はおかしなことになるのは見え見栄だ。そんな会の”虔十”というのは変わった名前だなあ、何のことだろうと思っていた。
調べてみたら宮沢賢治氏の作品の主人公の名だった。
あるときその本を手にとって見た。
児童向けの優しい本だったが、読むそばからポロポロと涙が落ちてきた。
今で言えば発達障害とでもいうのか、いつも馬鹿にされ黙ってもくもくと優しい心で暮らした虔十という少年が、初めて欲しがったのが杉の苗木。それを荒地を耕して植え、やがては人々が憩い遊ぶ素晴らしい森になるという話。
賢くて理詰めで損得勘定やら自分の理屈ばかり並べることもなく、もくもくと植えた苗がやがては人々を癒し喜ばれる森となる。
なんと象徴的な話だろうと思った。
なるほど件の市民団体が【虔十】の名を団体名にしたのはそういう深い思いがあったのか、と納得。
人は自然の恩恵から切り離されては生きてはいけない。
虔十は森が立派になるのを見届けず死んでしまったが、森の恩恵はその後もその土地が発展しても人々のやすらう場になったと言う。
宮沢賢治氏はすでにその簡単な短い作品の中に、現代社会を生きるわれわれへの愛に溢れるメッセージを残したように思えた。
この本の挿絵のちっちゃな虔十の絵もみていると素朴で涙が落ちる。
ここにはとっても大切な【心】があるような気がします。