第2巻は上エジプト。ルクソールを中心に。
★★★★★
古代エジプトの遺産を見るとき、ファラオたちの人生が、つねに死と深く結びついていたことを感じる。彼らはこの世を束の間の住処と心得ていたのだろうか。彼らは若い頃から、死後に名を残すことに専心し、死後の幸福のためにすべてを捧げた。
王侯貴族の何不自由ない生活といっても、現代のような便利な道具もなく、簡単な怪我や病気も容易に治す手だてがない時代。しかし彼らが現世を忌避していたとは思えない。彼らがそれなりに幸福であったことは、来世にも同じ生活を望んだことでわかる。彼らが厭うたのは恐怖や不安ではなかったか。彼らが不老不死を願ったように見えないのは、現世では幸福な生活を脅かす諸々の事象に対する恐怖・不安が絶えなかったからではないか。それは病気・事故のほか、離別の苦しみ、そして失脚や暗殺など政治がらみの恐怖であったかもしれない。
本書は図版による古代エジプト案内の秀逸な後編である。上エジプトの遺跡・遺物が紹介されており、その中心はルクソール(テーベ)である。写真では実物の巨大な迫力に及ぶべくもないが、それでもこの小さな本にしては最大限の効果を発揮していると思う。文章が添え物でなく非常に明快で重要事項が要領よく紹介されているのも本書の特長である。