日本における「雇用問題」の核心を突く―「雇用ニューディール政策」の実現へ
★★★★☆
2006年における門倉貴史氏の『ワーキングプア』(宝島新書)や、08年の湯浅誠氏『反貧困』(岩波新書)などがプロローグ(序章)だとしたら、「外需依存・自動車依存」という「日本型モノカルチャー」構造を転換し、フレキシビリティー(柔軟性)、フェアネス(公平性)、セキュリティー(保障性)に基づいた労働市場の構築等を提示している本書は、日本の「雇用問題」における「希望の構想」と言えるかもしれない。巷では、短絡的ハイエキアンや情緒的ケインジアン、似非マルキストなどの言説がワイドショーやサイバースペースなどで氾濫しているけれども、当書の論説などを軸にして日本型「雇用ニューディール政策」に係る冷静な議論を先ず期待したい。
ただ、日本総合研究所主席研究員である筆者の山田久氏は、「主張を変えた部分はある」としながらも、「構造改革路線の基本が誤っている」とは考えておらず、「構造改革路線の基本は継承しつつも、それが見過ごしてきたもの―具体的には、新しい公平原理に基づく労働市場の創出を中核にしたトータルな社会改革―に着手することこそ進むべき方向性」(「あとがき」)だとして、「超・構造改革」を提起している。だが、たとえば、この度の「かんぽの宿」一括売却を巡る顛末などは、まさに1881(明治14)年に発生した「開拓使官有物払下げ」に匹敵する事件であり、少なくとも「小泉=竹中流構造改革路線」に関しては徹底的な検証が必要だろう。
それはともかく、昨今の雇用情勢の悪化に対して、大企業の内部留保金の吐き出しを声高に求めたり、あるいは単純なバラマキ型ケインジアン・ポリシーの要求そして発動といった対処療法では、事態の抜本的な打開は望めないだろう。やはり、将来的には、欧州型の「第三の道」、すなわち「効率性」と「公平性」が両立した雇用システムの構築を目指すべきであろうし、具体的には、「均等処遇(同一価値労働同一賃金)」「フレクシキュリティー」「政労使協調」などをベースとした雇用戦略をデンマーク等の事例も参考としつつ取り入れ、さらに社会的なセーフティーネットの再整備は無論のこと、新産業の創造(供給サイドの改革)などを図っていくべきと考える。