建築、都市計画やアートマネジメント、パブリックアート、パフォーミングアートのプロジェクトに関わる人こそ読むべき本
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近代都市の歴史から浮かび上がる、服飾と人々のマナー、政治家の「個性」、観客と俳優の逆転、感情の抑圧と劇場建築の変容、芸術家と観客の分離、コミュニティや「信頼」への執着とナルシスティックな自己啓発的・心理主義的な「動機付け」の執着など、17世紀後半から19世紀末にかけてパリ、ロンドンといった大都市の人々の間で次々に起こってきて現在につながっている現象を、大局的な視点から歴史的に関連付けて述べることに成功していて、さらに、それらの前提となった人間の欲望の問題を考察している。
公共哲学、心理学、政治法制史、文化史のそれぞれを批判的に横断しているため、都市論としても、服飾史としても、芸術論としても、コミュニティのセキュリティ論としても、ジェンダー論としても、政治史としても、非常に重要な視点を与える本である。
日本でも、ここで論じられていることの一部はあてはまる。革命こそなかったが、近代化というものがもたらした状況は重なる面が多々ある。前近代を終えぬままポストモダンだかグローバリズムだかわからない状況に投げ込まれた現在の社会を一段深く理解するヒントが満載ともいえる。政治家についてのリアリティは、書かれた当時よりも、今の方が日本人にとって格段に理解しやすい状況になっただろう。
70年代の本にもかかわらず、インターネットや携帯電話によって可能になったコミュニケーションがなぜ今のような形になっているのかということへの考察(もちろんそれは人間の欲望を分析することである)にも、この本は大変役立つ。都市論、ジェンダー論や表象文化論はもちろん、法律や政治、コミュニティビジネス、スポーツや文化のコンテンツ、まちづくりや次世代のビジネスを勉強している人にもぜひ勧めたい。特に、レム・コールハースの活動や、「錯乱のニューヨーク」を読んで感銘を受けた人は絶対読むべきだと思う。
細かい目次はhttp://d.hatena.ne.jp/tsakuta/20081229/1230536739にあるので参照されたい。