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風になってください―視覚障害者からのメッセージ

価格: ¥1,470
カテゴリ: 単行本
ブランド: 法蔵館
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人間っていいな。やっぱり、人間っていいな。 ★★★★★
人間っていいな。やっぱり、人間っていいな。
この、当たり前のような、とてもさりげない、短い感慨に、この本の作者の人間性、人間愛が凝縮されている。
見えない世界に旅立った作者が、見える世界の我々に共感の快感をおしえてくれようとしている。やさしい文体のなかに熱い熱い想いがある。見えない人のことが少しわかったとき、少しだけ役にたてたと思えたとき、お互いの心がぽっと温かくなる。そんな瞬間の感慨が、この短いエッセイに満載されている。
我々「見える」人間は、いかに「見えない」人の生きる世界のことが、何も見えていないか、いや、見ていないのか、を思い知らされる。
しかし、見えていないこと・見ていなかったことを知ることが、見えるための本当に大切な第一歩だ。
この本には、「見える」人間が「見えない」世界を見えるようになるためのヒントがたくさんつまっている。
読み終わったあと、温かい気持ちになり、翌日から世間に白い杖が増える。
きっと傍にあるもの。 ★★★★★
この本は、だんだん見えなくなって、数年前に網膜色素変性症のために失明した男性が記したエッセイである。
失明の苦労話ではなく、著者の松永さんの感じる見えない世界という世界を、招待しているようなものだ。

その中で、一つのエッセイを紹介したい。

「ヒヤシンス

思いの込められた手紙が届く。
窓際の水栽培のヒヤシンスが、淡い紫の花を咲かせたらしい。
多分僕が見えるのなら、
彼女は写真を選択しただろう。
見えない僕に伝えるために、
彼女の目はカメラのレンズよりも繊細な描写をおこなった。
僕は見えている頃、
本当に心を動かされる景色は、
写真には残さない主義だった。
勤めて、瞼に焼き付けることを試みた。
そして、どうしても思い出せなくなったら、また足を運べばいいと考えていた。
記憶は色あせない。
記憶は朽ちていく。
朽ちていくから美しい。
美しいものには色がある。
僕の心の中で、ヒヤシンスは見事な花を咲かせた。」

この詩を、解説させていただきたい。
「本当に心を動かされる景色」を「写真には残さない主義だった」の理由は、おそらく万が一失明した時の自分を想像しての事だろう。
網膜色素変性症は、難病でわかっている事が少ない。医師が患者に伝えるメジャーな言葉は、「まだ治療法がなく、失明する人もいる。」という事だ。

「瞼に焼き付けることを試みた」に、著者の前向きな生き方が伺える。
失明する自分も視野にいれて、大切に、景色やきれいなものを見てきたのだろう。失明しても見れる「アルバム」のために。

それは、とても大切な事のような気がした。
いつまでも人間は「今のまま」の状態は続かないのは確かだ。
それを教えてくれたような気がする。

「朽ちていくから美しい」のは、多分、なかなか思えない事ではないだろうか。見る事にこだわっていたら、多分、そう思えない気がする。

「僕の心の中で、ヒヤシンスは見事な花を咲かせた。」の言葉は、本当に既定概念を超えた言葉であると思う。
手紙をくれた(きっと女性)人の事が伝わって欲しいという想いと、著者の過去のアルバムが、うまく溶け込んだんだろうと思う。

ここまで書いて気づいたが、この本は、「人」との関わりで、「見える」ものを記した本だと思う。
なので、私達ももしかしたら、傍にあるものなのかもしれません。
「目」を使って見てるからこそ、見えないことがある気がすると感じた本であった。