見てはいけない夢のような
★★★★★
誘拐事件の犯人がカーチェイスの末、さらった子供と身代金を届けに来たその親とを殺害、追い詰められるが、逃げおおせ日常にもどる。
この漫画の冒頭です。
ここまでで15ページくらい。複線もきっちり織り込まれています。
この手際。
小説でも映画でも、夢中になっているときは気づかないのですが、名作の書き出しというのは、なにかありますね。
主人公の狂気は、戦争という異常をインプットとするなら、そのアウトプットです。
ギリシャ彫刻を思わせる美男子で、頭も切れる主人公、結城。
戦争に対するアンチテーゼであるとともに、ぶっちぎりのエンターテイメントです。
天才というほかない
★★★★★
手塚治虫という人には全く感嘆する。
この独特の世界をさらりと書いてしまうのだから。
退廃的でエロティックで狂気が充満した何食わぬ美しい顔の世界。。
ビアズリーの挿入も見事でした。
思ってたよりも
★★★☆☆
読後の私見。
手塚治虫の最大の問題作なんてことを伝え聞いたので早速読んでみた。
主人公は幼少の頃微量の毒ガスの影響を受ける。
自己中心的・嘘つき・冷淡・無責任・攻撃的、
退屈しやすくいつも刺激を求める・衝動的で抑制ができない、
いわゆるサイコパスである。
その主人公の暴走を止めようとする神父。
内容は思っていたより平凡で退屈だ。
発表当時は問題作だったかもしれないが、
今の時代刺激的なニュースや事件などのリアル、
映画や小説・漫画・アニメなどのバーチャル、
その双方になれている現代人にとってはそれほど問題作とは感じなかった。
むしろ手塚さんらしさを感じた。
悪の権化
★★★★☆
ムウという化学兵器によって脳をおかされた純粋な少年が、悪の権化となって幾多の殺人や悪行をためらうことなくやってのけ、ムウを手にいれるために手段を選ばず突き進むというあらすじ。主人公結城は基本的には悪そのものであり、他の話であれば少しは人間らしさを垣間見させるところを、そういった一瞬も手塚は許さない。(賀来神父への愛情については数少ない例外だが)悪とは一体存在するのか、それは一体どのようにあるのか、それはどうしてあるのか、そんな悪について考える契機を与えてくれる。悪というものそのものが主題のため簡単に主人公に移入できるわけでなく(現に主人公は内面をあまり語らない)心地よく読めるような漫画ではないが、そうであるがゆえにむしろ心の中に強く刻まれ、そして臨場味がある。まるで悪意で生み出された化学兵器など結局のところ悪を次々に生み出すだけといっているようである。そしていくつもの謎がちりばめられている。なぜ主人公結城はバイセクシャルなのか。そして結城がムウを求めていたのは本当に人類全体を死に至らせるためであったのか。すっきりとした読後感というよりも、むしろいろいろなわだかまりを残す、そんな漫画だと思う。
勧善懲悪に唾を吐け!!!
★★★★★
善と悪、男と女、二元論を超越したところに何があるのか?MW(ムウ)は真剣な漫画を通じてこの世の不条理を問う。世の中の罠にかかる一歩手前で踏みとどまって考える優しい時間を著者は与えてくれたのではないかと思う。この作品を通じていかにこの頃が子供主役の時代であったのかが伺える。大人たちの語る安っぽいヒューマニズムには興味は無い。生命力あふれる怖いもの知らずの子供達がこの作品を呼んでどんな事を感じるのだろうか。ドキッとするような鋭い意見が返ってきそうである。