ぼくのお腹の中からは、たぶん獣がいっぱい出てくる
★★★★★
主人公の成雄が十四歳で生まれることから物語は始まって、(おそらく)十八歳の頃に物語は終わる。
だから、題材とされた期間という意味で捉えれば、この本は丸々そのまま、青春小説だ。
でも。しかしながら。この小説は青春らしさを伴っていない。
楡という明確なヒロインまで投入されていながら、成雄の思考は青春らしい欲望に対して余りにも距離を置いている。
私たちが実感する概念としての青春と、成雄が経験する青春の間の位相のずれを利用して、不思議な空気感を生み出している。
主人公の成長が進むにつれて天地の理まで曲げてしまう舞城節は相変わらずだけれども、ディスコ探偵水曜日で世界をまるごとぎゅっとまとめてしまったような迸りは抑制されている。
そう出来なかったのは、「獣の樹」という書物が舞城ワールドという奇妙なバランスで立つモビールの中でも、とりわけウェイトを置かれたパーツだからだと思えてならない。
無理矢理引き抜いてしまうと、周りのブロックごと崩れてしまうジェンガのブロックみたいな。
なにせ、鬣の生えた韋駄天少年成雄については既に二篇の既発表作があり(山ん中の獅見朋成雄とSPEEDBOY! (講談社BOX))、
作中フレーズ『喜びは鳥になる』はそのままタイトルの短編があり(2005年12月22日号週刊新潮掲載)、
なにより、青春、ひいては青春小説の取り扱いは、舞城王太郎がずううっっとやらかしてる領域なのだから。
寝取り男に対して相変わらずどうでもいいくらいに無慈悲なのにはちょっと笑ってしまう。
前半だけなら☆5つ
★★★★☆
相変わらずの舞城節で引き込まれて、一気に最後まで読める。
ただ、後半の展開にあまり必要性を感じなかった。
突然ぐるっと世界が変わる感じが必要だったのかもしれないけれど。
speed boyと同じく、なんだか消化不良気味の印象。
舞城作品が好きな人には、それを差し引いても読む価値があるとは思う。
それだけにやはり残念…。
舞城王太郎という作家を知るにはいい機会かも。
★★★☆☆
舞城先生の作品を読むのは4冊目くらいになるかな。
「煙か土か食い物」を読んだときはスゴイなと思ったけど他を読んでてもあれ以上の驚きはなかなかない。
この作品もその例に漏れず読み終わってからは特に興奮を覚えなかった。
ただ、500P以上ある小説を1日で読ませてしまう文章力は相変わらずで、単に私自身の中で気にくわなかっただけだろう。
軽く触れると、
馬から生まれた主人公が蛇の口の中に乗る少女『楡』に恋をする。
この、現代に神話テイストが含まれているように感じる独特の世界観は流石だなぁと圧巻させられる。
しかし、途中からそのテイストが薄れ、辻褄合わせというか、ラノベチックになってしまったのは残念。
もっと無茶苦茶やってもいいんじゃないかなぁというのが感想です。
また、最終的に事件は終息せずにモヤモヤした感じが強く残る。
よもや続編という案はないだろうがなんだか肩透かしをくらってしまった気分だ。
以上、
強く薦める作品ではないが、舞城王太郎という作家を知りたいのなら一読してみるのも悪くはない。
野獣の樹
★★★★★
今までこの作家の作品には批判的だったが、この作品にいたって考えを改めた。作品全体に堅苦しい建前だらけの大人たちの既成の世界を超越した自由奔放さが駆け巡っている。主人公は社会的に未熟であるという立場を維持しつつ、じゃああなたたち大人は何か大切なものをなくしてきたのに、誤魔化してきただけではないかという強烈な問いかけがある。そこまで難しいテーマを読み込まなくても、成長小説としても楽しめるし、怪奇小説としても、ミステリーとしても、ほのかな恋愛小説としても、多面的な読み方が可能である。そして、ストーリーテラーとしての天賦の才能。これからの日本の文学には気取った村上春樹よりもむき出しの舞城が必要だという実感がじんわり沸いてきた。お勧めの一冊。読んでよかった。