きらめく野辺の花たち
★★★★★
第30巻・「フレーム オブ マインド」。
短編集第3弾。“写真”をキーワードにまとめた短編集で、9つの短編を表題の「フレームオブマインド」で繋ぐ構成です。
前巻であと一息、という終わり方をしておきながら、ここで短編集を挿むとは……憎らしい演出です。
しかしながら、この巻の短編はどれも珠玉の出来。
これまで脇役に徹してきた武嶋蔦子嬢を物語の中央に据え、薔薇さまたちとは縁のないような一般生徒の話をいくつも展開するという、新しい試みも素晴らしい。
せつない話や笑える話、毛色の違う様々なジャンルの短編を絶妙に配置し、蔦子さんの物語でうまく締める様は、色鮮やかな写真集を見ているようでもあります。
こういう構成の仕方があるのなら、「マリみて」はいつまででも続けられそうですね。そういう可能性を示した一冊です。
素晴しい一冊でした
★★★★★
どのお話も良かったのですが特に心に残ったのは『不器用姫』でした。
決してハッピーエンドではありません。しかし、考えさせられました。
相手に自分の行動がどううつっているのか。
良かれと思ってしたことでも、相手にしてみたら単なる迷惑な行為でしか過ぎなかったり。
蔦子さんが言っていたようにいつかさゆりさんに寛美さんの気持ちが伝わる日が来ればいいと思いました。
今野の10年間の総括的作品
★★★★☆
大団円を目前に控え、作品全体を総括する意味で重要な至玉の宝珠といえる番外編。
竹嶋蔦子、田沼ちさと、内藤姉妹らを筆頭とする各シーンで強烈なアクセントを放った人物のアナザーサイドストーリーのみで構成された作品で、本篇にある独特の世界観を保つための設定があまり絡んでこないので、本篇を全く未読の人でも小説として楽しむことができる。
竹嶋蔦子をよくぞここまで温存したものだとあらためて作者の全体図を見渡すセンスのよさに気付かされる。
瑞々しい感性が溢れ出る才能の結晶。
★★★★★
いつも「マリみて」の新刊を読む時間は、浸りつつゆっくり時間を掛けて心の感触を確認しつつ読みます。
まさに女子校育ちだった私にとって、「マリア様がみてる」の世界は青春の喜びと苦さの記憶の旅。
今回の短編集は特に、若さだけでただひたすら純粋に一途に、あがき走りときめいていた日々を
懐かしく振り返る機会を貰いました。
紺野緒雪という作家のいつまでも変わらない、十代の少女の心のもろさ、したたかさ、きらめき、残酷さを
描く才能というものは彼女自身だけが語れる永遠の魔法のよう。
数多くの生徒の中から運命的に選ばれた「三色の薔薇」以外の、普通の野花を見つめたこの作品は
シリーズの中でも特出しているように感じられる。
ついに決着がついたかのように思われる祐己と瞳子のデートの前にこのストーリーがきたことも心憎い。
そして何より、誰より一番今作で輝いていたのは、ファインダーを構える蔦子女史。
リリアン女学園で数多くのシーンに出会ってきたであろう彼女のカラーが表紙に登場したのは本当に嬉しかった。
「姉妹になることだけが全てではない」という台詞が、彼女から発せられる故に、強く心に残る。
もしかしたら、溢れる場面を秘めている蔦子さんこそが、紺野さんの分身なのかもしれない。
秀作
★★★★★
他の方も仰られていますが、私も、今までの短編集の中で本作が一番好きです。
特に心に残ったのが、「不器用姫」「温室の妖精」です。
「不器用姫」は締めが良く、「温室の妖精」は幻想的な雰囲気が好きです。
あと「ドッペルかいだん」は、少しヒヤヒヤとしましたが、アリコの正体が遠回しに明かされた時にはかなり驚かされ、そしてスッキリしました。
ただ、不満な点が二つ。
先ずひとつ目。のりしろ部分に、乃梨子や令さま、祥子さまの出番がない事(その代わり蔦子さんが出ているので、蔦子さんのファンには嬉しいのりしろ部分かも知れません)。
二つ目は、江利子さまと令さまの出逢いが、他の姉妹と然程変わらなく、特に新鮮味が無い事。
特に聖さま&志摩子さん、志摩子さん&乃梨子の様に、白薔薇ファミリーの系統です。
ただ江利子さまは、白薔薇ファミリーの様にお節介を受けながら令さまを妹にした訳では無いので(白薔薇ファミリーを否定している訳ではありません)、そこに江利子さまらしさを感じました。
さて、次巻の祐巳&瞳子は、一体どうなるのでしょうか。