スタインウェイで弾かれたベートーヴェンは論外だと思うので ;) どちらにしてもバックハウス以外の選択肢はほとんどないのだが、なぜかベートーヴェンに関してだけは指揮者に相性のよさで知られたベームではなくイッセルシュテットが起用されている。どうしてなのだろうか。もちろんオーケストラがヴィーン・フィルだけに悪い演奏ではないのだが、バックハウスと同じ演奏スタイルを採りながら、すなわち「楽譜に忠実な演奏」を標榜しながら、誰にもマネのできないクオリティの演奏を成し遂げてしまうあの不思議なカール・ベームの指揮が聴けないのは大変残念だ。
もちろんバックハウスのピアノについては何も言うことはない。面白く弾かないことこそが重要なポイントなのである。抑制されたスタイルのうちにベーゼンドルファーを美しく響かせてさえいればベートーヴェン演奏に関しては他には何も必要がないからである。そこが例えばロマン派のピアノ曲とは異なる点だ。
大変残念だが一点減点して四点としたい。
なお、ディアベリ変奏曲はモノラル時代の録音だ。これと「ハンマークラヴィア」だけは、バックハウスはステレオで再録音せずに世を去った。もちろんテクニック的には完成された録音で素晴らしいのだが、できればステレオで再録音して欲しかった。これも残念。