東京駅建設については全体の40%、大風呂敷にホコロビあり
★★★★☆
全280頁の内、東京駅の建設工事を詳述するのは第5章「中央停車場建設」60頁であり、計画段階の記述、第4章「帝都の表玄関とパススルー」の大半30頁、完成から開業について述べる第6章「走り出す東京駅」のうち約20頁を加えても110頁、全体の40%にとどまる。つまり、東京駅という建築物の計画・建設と開業の様子を知りたいと本書を手にしても、その期待は十分には報われない。
では何が書かれているかと言えば、日本の鉄道史、東京の都市論などが大風呂敷に展開される。外国人技術者や大林芳五郎についての知見、アムステルダム駅モデル説への明快な否定など有益な情報提供がある一方で、東京駅の完成した1914(大正3)年が第一次世界大戦の勃発した年だとして2ページも詳しく記述する必要があったか疑問だ。東京を山手線の駅を核とした都市の連合都市だとする説や、東京に道路計画の意識が希薄だったような主張には賛同出来ないが、これは見解の相違であろう。
しかし、東京を論じるならば、「外堀通りは外堀を埋立てて出来た」などのような基礎的な誤りはして貰いたくない。戦後外堀が埋立てられた跡は鉄鋼ビルなどが建っており、外堀通りには戦前から市電が通っていたのだから。「呉服橋が神田駅の南」とか「私鉄図に東武線が落ちている」など細かい間違いは随所に見られた。これは編集スタッフのミスでもある。
ついでに言えば、ものの言い方が大げさで、明治天皇を「維新の大盟主」などと称するのは非常識だ。断定的な「のである」が頻発するかたわら、「ようだ」「そうだ」と推察・伝聞が多々あるのも気になる。写真は多いが、地図データは不足している。