「内なる幸福」を追究する最良の書
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マチウ リカールは、深い思いやりとシャープな論理性と、思わず笑い出してしまうユーモアも交えて、人間の可能性に関する偽りを暴き出し、これまでの仮定に反駁してくれた。本物かつ永続的な幸福が可能であるのみならず、幸福は人間の生得権であることを明確に示した。我々の中で最も叡智に富み、最も信頼に値する友人による類い稀なる書である。
リチャード・ギア
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マチウ リカールは、ダライ ラマ法王の影で縁の下の力持ちのように活動するフランス人仏僧。父はフランス知識人、アカデミー フランセーズ会員で哲学者ジャン フランソワ ルヴェル。リカールは若き日よりネパールの僧院で30年以上の修行を行なった後、現在はダライ ラマ法王のフランス語通訳やインタビュアーの役を任せられ、法王の協力の元で行なわれている「心と生命会議 (Mind and Life Institute)」などでも活躍している。
●Mind and Life Institute(心と生命研究協会)
http://www.educatingworldcitizens.org/
上記の会議に招かれる欧米の世界トップクラスの認知神経科学者、心理学者フランシスコ ヴァレラ、リチャード デビッドソン、ダニエル ゴールマンなど他多数と親交を持ちつつ、瞑想が神経組織や脳にどのような影響を与えるかなどの研究にも関わっている。フランス国営放送ではリカールやデビッドソンの瞑想研究などが紹介されてもいるようだ。
本書の序文にアメリカの俳優リチャード ギアが寄せたコメントが使われているように欧米では著名だが、日本ではチベット仏教に関心のある人にもあまり知られていない。リカール氏本人の記述による著作で唯一邦訳されたものが本書。ちなみに氏の対談を本にした対談書形式の邦訳は以前から二冊出版されている。哲学的討論書である。実父ルヴェルとの対談書『僧侶と哲学者』、科学者との対談書『掌の中の無限』である。
●フランス国営放送
http://www.youtube.com/watch?v=FAsBEeny66Y
●Matthieu Ricard: Habits of happiness
http://www.youtube.com/watch?v=vbLEf4HR74E
本書は、とても素晴らしいレベルで書かれたものだと感じます(難しく書かれたものではなく、仏教用語を知らない万人の読者向けに書かれている)。易しく深いアドバイスは、仏教思想を習熟していないと書けないものだと感じ、著者のバックボーンが伺われる。また思想家を父に持つ著者だけあって古今東西の西洋思想家(プラトン, エピクロス, マルクス アウレリウス, ベルグソン, アラン, ショーペンハウエル, カントなど、他多数)と仏教思想家(ダライ ラマ14世, ナーガールジュナ, チベット仏教聖者たちなど、他多数)や、さらに現代の科学者たちなどの言葉や格言、最新の研究成果などを小気味よく使いながら、それらの符合点などを丁寧に紹介しつつ「幸福を得るための心得」と「生き方」「瞑想法」などが紹介されています。
先に挙げた「心と生命会議」の流れで行なわれた科学者たちによる瞑想実験の結果も詳しく書かれており、「止瞑想」「観瞑想」などが脳に及ぼす影響などにも言及されている。瞑想による脳の〈可塑性〉が科学的に証明できるレベルまで来ているということもわかります。とても論理的かつ、易しく“幸せ”を得るためのアドバイスが書かれた本書は、どのような立場の方にも薦めることのできるものだと感じます。気づいたときに何度も読み返し自分のなかに落とし込みたい基本的で深い洞察に満ちている書です。
本書の最後に書かれていた文言
「本書の印税収益のすべては、著者の希望により、
ネパール, チベット, ブータンなどの人権プロジェクトに寄付されます。」