『歎異抄』を親鸞の思想から読みきった求道の書
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『歎異抄』については、これまで数え切れないほどの解説書があるが、その多くは著者の主観的な感情によるところが多く、いまだ親鸞の『教行信証』を踏まえた本格的な思想研究は不思議なほどなされていない。
本書は、そのような『歎異抄』研究の現状に、地味ではあるが確かな一石を投じたと言ってよいと思う。
著者は、真宗学の専門家として『教行信証』の思想研究の立場から、『歎異抄』の一章から三章までに焦点を当てて論じておられる。
『歎異抄』は親鸞の弟子の唯円房の書いたものであるから、「親鸞の」思想、信仰を知るためには当然の手続きであろう。この点が、これまでの『歎異抄』研究にない独自な視点である。
真宗学の専門的な用語がおおく、一般の読者にはやや難解かもしれない。また、学問的にもあまり幅広い視野を持っているとは言いがたい。
ただ、本書は著者の求道的な関心で一貫しており、仏教学・真宗学に不慣れな一般読者でも、実存的な苦悩を『歎異抄』に聞いていきたい方には、必ずや何か得るものはあると思われる。
その意味で、宗派・思想を問わず、「生きた仏道」を求めるすべての方に呼んでいただきたい一書である。