果てしないがんとの闘い
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「がんの犠牲者になるのは多くが高齢者なので、進行を遅らせることは治療に匹敵する」。
過去の「日経サイエンス」の記事から、ガン研究に関する記事をまとめてある。なかなか読み応えがあった。
発がんのメカニズムに関する研究の現状、進行を遅らせる方法や転移を防ぐなどの根絶以外のアプローチ、免疫とガンの密接な関係、ガン幹細胞の役割、悪性化のプロセス、100歳以上になるとガンになりにくくなる、ビタミンDの不足とガンの因果関係。
アデノウイルスを改良してガン細胞のみを殺す試みは、原理的にはかなりよさそうだが、実用に向けてのハードルも高そうだ。また、モノクローナル抗体、ハ―セプチンとダイマーセプト、ナノ抗体については、ガン治療に限らず幅広い用途が期待できそうだ。さらに、様々な糖鎖構造と機能を明らかにする「グライコミクス」という研究は、ゲノミクス(ゲノム)の糖鎖版ということだ。ウコンの薬としての可能性についても書かれている。
生命科学の基本的な知識が必要で少し難易度は高いが、高度な数学が分からないと読めないというような本ではない。科学的にガンのしくみについてかなり細かく説明してあるおかげで、切除以外によるガンの完全治癒というのは原理的に非常に難しいものだということが理解できた。