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過去の声―一八世紀日本の言説における言語の地位

価格: ¥7,140
カテゴリ: 単行本
ブランド: 以文社
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学位論文の見本 ★★★★★
 日本思想史の代表的研究者として知られる酒井直樹氏の、シカゴ大学へ提出した学位論文の翻訳である。学位論文であるため、論述のスタイルはきわめて厳密で、概念の定義づけからきちんと記述してあるため、繰り返しが多い印象を受ける反面、曖昧さはほとんど感じられない。ただ、原文が英語で書かれているためか、日本語の翻訳で読むと使われている言葉が難解に感ずる。原文ではふつうの英語なのかもしれないが。
 「シュタイ」という翻訳可能性に乏しいことばがキー概念として使われている。しかし、正直なところ、この概念が本書中でどのような位置を占めるのか、わたくしにはよく理解できなかった。十八世紀日本の言説についての考察、となっているが、実際には近代日本語の成立に纏る言説の変遷と言えるだろう。著者は十八世紀に日本語という概念は成立したと論じているが、閉じられた「日本」という国家が成立し、「ひとつの」「正しい」日本語というものの存在が求められたとき、それは失われた過去としてしか存在しない「純粋日本語」というものの回帰、というかたちで欲望された。遠い昔に、某マンガのように「オマエはもう死んでいる」と定義されたもの、それが日本語であるから、著者は「死産」と名付けたのである。
 ただ、草莽堂氏の書かれている通り、それはありとあらゆる言語に当てはまるだろう。ただ、その「回復」までは著者の構想には最初から入っていなかったと思われるので、評価は落とす必要はないと思う。
これをどうやって実践に結びつけたらいいのか・・・ ★★★★☆
 著者は、18世紀の伊藤仁斎の思想の中に可能性としてあった生き生き
とした日本語が、荻生徂徠、本居宣長らによって音声中心主義的なものに
貶められ、「他者」と出会わないような日本語にされてしまった
(=死産された)ことを嘆く。

 日本においてどのように音声中心主義が根付いたのか、よくわかった。

 丸山真男の荻生徂徠理解とまた違った理解で、面白かった。

 ところで、著者の論理から行くと、ありとあらゆる言語が「死産」
されているのではないか。死産されない言語をどう回復し、それを実践
するのか、それが問題にされるべきだと思う。