必死三昧の万能の人
★★★★★
軍人として教育を受けたのではなく、気象の専門家だったのが士官になった人の手記である
だから自分の専門性に基づき生粋の軍人とは違う視点で書かれている
事務処理能力も異様に高く、沖縄方面の気象観測網の維持をしたり
観測隊の陣地を設営し切り込み隊の訓練まで行っている。世の中、万能な人がいたもんだな、と
気象観測やそのアウトプットが航空戦力にとっていかに重要なファクターとなるか
あるいは軍隊内での事務処理の過程など、なかなかに知らない話が多い
いざ決戦となる前に沖縄から東京に呼び戻され、沖縄に残してきた仲間はほとんど戦死
さらには九州の特攻隊の基地での気象観測を行うこととなり多くの特攻隊員を見送ることとなった
また特攻隊の付き添いでの決死の気象観測の話が出るなど
何度も死を意識しつつもそれを回避してきたのが独特の風合いを帯びているようである
気象関係では同僚に恵まれ海軍の中では無能な上司などにはあまり当たらなかったせいか
本職の軍人の書く整理された反省しきりの本とは一線を画す一冊である
この人が書いているもう一冊の本が書かれた心境が少し伝わったかも
軍ヲタのみならず気象好きやお役所仕事好きにはおすすめだね
新田次郎が好きな人はとりあえず読んどけ
必死三昧
★★★★★
著者は大東亜戦争末期に海軍気象士官として従軍された軍人である。気象士官といっても必死覚悟の沖縄で白兵戦に備えた部隊をも指揮されていた御仁である。軍命により米国が上陸する前に東京や特攻基地であった国分へ転進されるが、当時の戦況や著者自身或いは戦友の方々の心中が克明に記された貴重な戦記である。特に沖縄戦では殆どの戦友を失いながら、僅かに生存された戦友の方々から聞き取られた終戦までの肉薄戦の記録や国分基地で多く特攻隊員を送り出し、その特攻機の突入寸前までの交信状況の描写等から散華される武人も、また残される武人も悲壮でありその双方からの“必死さ”が伝わってくる。終戦間もない言論の自由が認められなかった占領期は兎も角、独立回復後には本来この様な記録は国家として全国民の共通認識にすべく、語り継がれるように配慮をすべきであったろう。