脳化社会の対極にあるもの
★★★★★
森の力 浜田久美子 岩波新書 2008
日本の国土の7割近くが山林である。そして今、森が荒れていると叫ばれている。
そんな森や林の現状を種々な角度からの視線を用いて描き綴り出している。
まさに森てんこ盛り状態なのだ。そして問題点も多く浮き彫りされている。
興味あったのは、矢作川水系でのボランティアと学術研究者との協働作業。これは東大演習林の蔵冶さんらと森林ボランティアとの非常に良好な人間関係のもとに展開する。
また、筆者の指摘する「山主イコール林業家ではない」という指摘はまさに的を得ていて、現在の日本の森の荒廃が拡大造林という国の号令でにわか林業家に成ってしまった全国の中小山主の実態を表しているのではないだろうか。ボランティアはあくまでボランティアであり、林業を専門とする人達の技術にも生活にもついてはいけないのである。森に興味を持つ入り口としては良いのであろうが。
「こうすれば、ああなる」的な脳化社会とは対極を成す自然の恵みの森や林の世界を疎かにする未来に何があるのか?その答えの糸口が本書の中に込められているのだろう。
目次
はじめに
I 育つ
第1章 森の幼稚園は五感のゆりかご―感情を深くためる身体に
第2章 高校生、森の名人に出会う―「森の“聞き書き甲子園”」というチャンス
II つながる
第3章 わが町で豊かに暮らし続けたい―森林セラピーで地域づくり
第4章 みんなで「森の健康診断」―人工林と森林ボランティア
III 生み出す
第5章 森の恵みを生かすビジネスを―森林バイオマスの可能性
第6章 森のプロを育てたい―「林業トレーナー」の挑戦
IV 引き継ぐ
第7章 街と山をつなぐ大工たち―地域の材を使いたい
第8章 種をまく人たち―木を知る建築士を育てる
おわりに― 森と暮らしの戦後史、私的概観
もっと知りたい人のために
木を見て森を見ず
★★★★★
おわりに、最初の取材を始めてから
この本が出来上がるまでに
丸2年かかったと記されてる。
読後感じたことは、
筆者はどの章も丁寧に取材され、そして読みやすく
読者に現場の人たちを理解していただきたいという
強い思いが伝わってくる。
人工林は自然が生み出したものではない。
人の手を加えて作り出したものは、
最後の最後まで人の手が必要である。
木を見て森を見ず、こういう諺があるが、
これが今までの林業の現状である。
森を健全に導くことは、
住みよい世界を作ることだ。
良書であると思う。
森と人の共生で健やかになる
★★★★★
本書は森にさまざまな働きかけをした人たちが、どのように森から働きかけられ、それを受け取っているかに焦点を当てて書かれている。
「育つ」…デンマークで始まった「森の幼稚園」は五感のゆりかごで、感情を深くする体に。
高校生百人が、森の名人百人に出会いレポートー「森の聞き書き甲子園」というチャンス。
「つながる」…長野県信濃町・わが町で豊かに暮らし続けたいー森林セラピーで地域作りを。
みんなで「森の健康診断」作戦、人工林の健康の指標と森林ボランティア。
「生み出す」…森の恵みを生かすビジネスをー森林バイオマスの可能性、成立には現実の壁。
森のプロを育てたいー「林業トレーナー」の挑戦、どこまで実践ができるか。
「引き継ぐ」…街と山をつなぐ大工たちー地域の材を使いたい。地元に密着した地場の活性化
種を蒔く人たちー木を知る建築士を育てる。木の建築を否定したのでは困る。