腹立たしい本である
★☆☆☆☆
腹立たしい本だ。筆者は、ウォートンやノースウェスタンのBスクールで「ベスト・ティーチャー賞」を取っているそうだが、どういうことなのか。
学術書として読めば即失格だ。証明が無いし、例示が少ない。経営学の二つのアプローチ、「例を多く調べて演繹する」か「特定のケースを深く掘り下げてセオリーに導く」のどちらでもない。
初めの方にP&Gのケースと思われる例が10ページも匿名で続くのだが、結末は「2010年ころには結果が見えているだろう」(訳書の発行は2009年)。つまりこのケースが示す結論などありはしないのだ。
「リーダーを早期に見つける方法を知ることだ」と指摘しているが、その方法は示していない。
「徒弟制度によるCEO教育モデル」というおもしろそうな提言をしているのだが唐突で、そのモデルをサポートするケース資料も無ければ、成功例が示されているわけでない。コンセプトだけである。こう分析してみると思いつきだけだ。
「育成計画は個々の特性に応じて」と「いかにも」風なことを言っているが、それって共通特性の抽出に失敗して何も言っていないことだ。「みんなでそれぞれ考えろ」と突き放していると同じ事で、読者に何も裨益していない。
最後の章で「CEOの育成は重要なことだ」と結んでいるが、問題は「それをどうする」ということだ。思わせぶりな書名だが、「それをどうする」という根本的な答えを提出していないままで逃げ出している。
リーダー不足をシステマチックに解消するための処方箋
★★★★★
邦訳タイトルは『CEOを育てる』ですが、企業のあらゆる領域/階層でリーダー不足を解消するための方法が書かれた本です。
企業の生き残りにとってリーダー育成が不可欠であることを企業全体に浸透させ、次世代リーダー育成を既存リーダーのミッションとして位置づけ、包括的な仕組みを構築・導入し、一人ひとりのリーダー候補を丹念に時間を費やして育てていく、その方法/プロセスについて、既に実施しているグローバル企業の事例を提示しながら、分かりやすく解説しています。
率直な感想としては、リーダー育成を本気で考えている企業は、本気度に見合うだけの手間暇をかけて育てているんだな、というものです。
リーダーの要件定義では、教科書からそのまま引用したり、他社事例をまねたりしている企業が多い中で、自社の環境・戦略(の変化)に応じて何度も協議を繰り返しながら独自の要件を導き出しています。
またフィードバックでは、年に1度の人事評価フィードバックすらまともにできない企業/管理職が多い中で、一人のリーダー候補(1ポジションに数名)に対して複数のリーダーが協議しながら成果/プロセス/能力/性格を見極め、適性を見出し、何度もフィードバックを重ねてリーダーを育てています。
更にリーダー候補の配属においても、空きポストを待つのではなく、(企業全体の整合性は確保しつつ)育成に必要であればポストを新たに作ってでも配置し、育てています。最近は減っているとは思いますが、能力がないのに年功で昇格してしまった管理職のポストを作って組織も人材もだめにしてしまう企業とは正反対です。
まさにリーダー育成が経営戦略の主要な構成要素となっています(戦略実現の手段というよりも)。
リーダーが不足している、人が育たないと嘆いている企業は数多く見受けられますが、本書に登場する本気の企業ほどの努力をしているところはほとんどないのではないか、と思わされます。また本気でない企業には真似のできるような努力ではないと言えるでしょう。
なお、社内人材登用、徒弟制度、ゼネラルローテーションなど、日本企業が従前実施していたようなキーワードが結構でてきますが、質的には全く異なります。質的な違いを読み取ることができないと、本書のメッセージを間違って捉えることになりかねませんので、注意が必要でしょう。
あらゆる階層の組織を率いる人、率いたい人、そして組織を作る人までに幅広く読まれるべき良書
★★★★★
GE社では、仮に幹部が急遽辞任した時でも迅速にその後任者を対外発表できる程に後継者プランが綿密に組まれ、そのパイプラインを絶やさぬようリーダー育成に心血が注がれている、という話を聞いて本書を手に取った。
本書では、リーダーの育成システムとして、著者が提案する「徒弟制度」の概要とその管理・運営方法が説明され、その導入にまつわる実際のケースも紹介されている(第1・2・6・8章)。そしてそのシステムの中身として、リーダー人材の早期発見、育成計画のカスタマイズと運用、上司によるコーチングとリーダーの成長管理をどのように行うか(第3・4・5章)が、ふんだんな実例と共に丁寧に解説されている。(残る第7章は取締役会主導によるCEO選定について)
幾多の企業の幹部教育プログラムに深く関わってきた著者だからこそと思わされる程に、企業の人材開発システムと著名リーダー達の日常的なプラクティスが豊富かつ詳細に記述されている。これにより、ややもするとフワフワとした解説に終わりかねない内容が、地に足のついたしっかりとしたものに仕上げられており大変勉強になった。
メインテーマはリーダーを選抜し育成するプログラムについてだが、リーダー育成はリーダーの仕事であると何度も書かれている上、リーダーとして身につけておくべき資質や心構えが説得力ある言葉で数多く述べられているため、リーダーを目指す人への啓発書でもある。一方で、「リーダーは一つの仕事であって、名誉のしるしではない」「自分にとって本当にリーダーを目指すことがベストなのか、もしベストならどんなリーダーか、それとも別の道を目指すべきか」等、一個人がこれから仕事を考える上での真摯な助言も綴られており、心に留めておくべきメッセージが多い。
何だかんだ言っても年功序列の文化が染み入っている日本において簡単に移植できない要素もあるだろうが、逆に外部から経営者や幹部を引っ張ってくる慣行が定着していない分、社内で幹部を育て上げる必要性が高い日本企業が本書から学ぶべきことはとてつもなく多いと思う。
邦題は「CEOを育てる」となっているが、原題が「Leaders At All Levels」である通り、本書で開発の対象となっている「リーダー」とはCEOのみならずあらゆる階層の組織を率いる人である。あらゆる階層の組織を率いる立場にある人、その立場を目指す人、そして組織を作る役割を担う人全てに読まれるべき良書だと思う。
中小企業経営者こそ必読 徒弟制度的継承者育成手法
★★★★★
大企業向けの後継者CEO(経営TOP)育成と読めるが、実は個人商店や中小企業経営者こそが、忘れかけていた徒弟制度的後継者育成の原点や手法としても読み取ることが出来ます。
後継者を育成するのが、社長の最大にして必須の課題です。
今こそ、独自の後継候補育成手法を本書から学んでみませんか?
後継者を選び育てるのが、社長の務めです。
パタの言葉(トリビア2009/8/24より)
「木のいのち 木のこころ:西岡 常一著」と通じるものがあります。
「徒弟制度といいましたら、古いもんといわれていますが、
古いからすべてが悪いというもんやないやないですか。
すべて同じ人間にしようという教育よりは、よっぽど人間的な育て方でっせ。」
その癖ごと、使命感をもって根気よく接してくれる“育てる人”の下で、
“育てられる人”は、一旦、<まっさらな状態>になり、経験を積み重ねていく。
逆説的ですが、一度“個性を封じる”ような、
本人にとっては不本意で混乱するような過程を経て、それでも地脈のように残るもの。
木を均そうとしてもなお残る“癖”であって初めて、“個性”になる。
そういうプロセスを踏むことでこそ、“個性”が生かされるということか。。。
ということは、“個性”という言葉につきものの、
「俺は、俺だけが持っているものを大切にしていきたいんだ」とか、
「これが『私らしさ』なの。とやかく言われたくないわ」とかの言い分は、
悲しいけれど、
その「俺だけが持っているもの」とか、「私らしさ」を、
却って生かしにくくするのかもしれない。
結局、“人と違うことをしているようでいて、実は同じ”という陥穽に落ち込む罠も、
そんなところから出てくるのかもしれません。
ひとを育てること、
自分を見つけること、
自分らしさを探すこと、って
一足飛びに、マニュアルどおりに叶うものじゃない。
一旦自分を漂白するプロセス、ってその目的のために必要なんじゃないかなあ、
な〜んて思ってしまいました。(゜゜)(。。)
徒弟制に共感
★★★★★
リーダーの素質ある人間を発見し、個別に育成していく。組織はそれを全面的にバックしていく。海外経験必要であるなら海外GMにすえる。ビジネスリーダーが自らリーダーを発見し徒弟的に育成していく。同時的にフィードバックをしていく。成長せざるをえない場を作って与えていく。実はこれは日本のマネジメントではなかったかを思い出せてくれた。リーダーを外に求めるのではなく、育つ仕組みを持つことが大切であることを教えてくれる1冊。