内容が秀逸でぐいぐいひきこまれる。訳も訳書だとまったく意識せずに
読める。小見出しもいい。文章が無味乾燥でなく味わいと人間味に
あふれている。
おもしろい。秀作だ。
作品の前書きをキャスリーン レイクス(Reichs, Kathleen, Ph.D.)が書いていることからも分かるように、昨今になって急に注目されだした検屍官や病理学者、法人類学者といった仕事の内実が作者の感情も含めて真摯に描き出されています。キャスリーン レイクスは法人類学者テンペランス・ブレナンを主人公とした一連の作品が有名ですね。
ちなみによく混同されがちにな「法医学者」と「法人類学者」の違いがこの作品ではきちんと整理されており、やっと今まで読んできた作品中の人物の背景が判明。簡単に言えば「法医学者」は軟組織を扱うのに対し、「法人類学者」は主に骨を扱うものだそうです。
著者のエミリー・クレイグ博士は医療イラストレーターとしてキャリアを出発し、テネシー大学人類学研究施、通称“死体農場”でウィリアム・バス博士(Bass, William M, Dr.)より法人類学者としての手ほどきをうけたとのこと。著作にもあるように、ウェイコーのブランチ・ダヴィデイアン集団自殺やオクラホマ連邦ビル爆破事件、9.11のWTCの現場に法人類学者としてされたとのこと。
それぞれの大きな事件現場の雰囲気や担当者の様子が、実際に現場にいた人間の目から話されることで、マスコミによるフィルターを通した情報だけでない臨場感や感情が良く伝わってきました。また指紋データベースや行方不明者データベースといったシステム体制に関わる不具合や不備など、担当者ならではの意見(愚痴?)も読んでいて納得する部分が多い。
米国では災害や事件への対応などがとてもシステマティックに整備されているという点も、とても勉強になりました。DMORT(Disaster Mortuary Operational Response Team)といった緊急時のチーム構成など、日本でも今後の災害対策やテロ対策として重要な要素となるような気がします。
法人類学者という職業についての見識を深めるという意味でも、またそういった事件・犯罪へ立ち向かう人々の内情をより正確に理解する手助けになるという意味でも、とても興味深く印象に残る一冊といえるでしょう。