「現状変革志向」のススメ
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一人の手により書かれた平和学の体系的教科書。もちろん、多くの手によればそれだけ多くの見方、捉え方が反映されたものになるだろうが、ややもすると読者に何を伝えようとしているのかが分かりにくくなってしまう。しかし、だからといって、一人の手によるものが全体を通じて一貫した姿勢が見られるからといって、その見方がどうしても限られてしまうことも見受けられる。それゆえ、読者に伝えたいことは「本書も『平和学』の他の書籍同様、このテーマの数ある見方の1つである」ということを踏まえたうえで本書を紐解いてゆくべきだろう。
さて、本書はこれまでの「平和学(平和研究)」を「現状維持志向平和学」ととらえ、そこで前提となっていた主体(行為者)、客体(対象)、価値観、認識などに依拠していたために、1970年代以降、次第に顕在化してきた「地球的規模の紛争群(問題群)」を解決するどころかむしろそれを維持・発展させてきていると認識に立ち、それに変わる「現状変革志向平和学」をオルタナティヴとして提示することを目的としている。この「現状変革志向平和学」において、これまでの「認識枠組み」を再構成・再構築していくことの必要性を訴え、著者の言葉でいう「グローバル政治(世界政治)」という観点から、新たに「平和学」を解体構築している。しかも、そこで展開されている「平和学」は単に、学問としてでのそれではなく、政策定言的でもあるので興味深い。
大学の専門課程向けではあり、比較的読みやすい内容ではあるが、理論的な内容なので特定の題材を扱っている訳ではなく、読みなれていないと難しく感じるかもしれない。但し、あくまでも基本となる国際政治学(国際関係論)の知識があることが前提ではあるが・・・。