妓女の悲恋
★★★★★
中国歴代の王朝を華麗に彩る妓女たちを主役に据えた短編集。
まず端正で流麗な筆致に陶酔。中国の妓女というと日本人にはあまり馴染みがないのですが、南京の大河沿いに栄え史実にも言及がある花街などが舞台となる作品は情景描写も凄く綺麗。各話で主役を張る女性たちもそれぞれ芯が強く機転に溢れ魅力的なのですが、ここではとくに印象に残った三人に触れます。
「背信」
放蕩者の祖父に苦しめられていた妓女が年の離れた恩人に恋をするが……
この短編集の中では最も女性的な醜さ、汚さ、狡さや弱さが出た話。女としての唯一の幸せを願いながらそれが得られず、絶望して背信に走った妓女の心情がひどく痛々しく、ラストの琴の音が哀切な余韻を醸します。
「牙娘」
男勝りで鉄火肌、牙娘とあだ名される妓女が通いの男に持ちかけたある相談とは。
妓女が機知で嫌な男をやりこめる痛快な話。なんたって牙娘のキャラが立ってます。こういう勝気な娘さんは好きです。
「名手」
地方に左遷された官吏の耳に届いた琵琶の名手の噂。部下とともにその正体を確かめにいくが……
とにかく情景描写が美しい。終盤の琵琶と笛の掛け合いの場面は実際に音が聞こえてくるよう。飄々とした官吏の正体を最後に明かす演出が憎い。
よく言えば余韻を残す、悪く言えばあっさり目の短編集ですが、花街ものがお好きな方はきっと気に入ると思います。
女ならではの世界
★★★★☆
妓女の中でも、風格の高い、日本で言うと「花魁」レベルの女性たちの恋やら、かけひきやら。
短編集なので、あたりもあればはずれもあり。
まあ、違う国の違う世界をちょっと覗き見する楽しさと、
女ならではの切なさと。
あんまり色っぽい場面はないです。
それよりも、彼女たちの博識さやプライドのぶつかり合いがおもしろいかな?
中古の値段なら、読んで損はないと思いますよ。
祇女たちの情感、心情
★★★★★
中国の古代から近世を舞台に、祇女、楽士を主人公として編まれた七編の珠玉短編集です。
特に最初の五編「朱唇」「背信」「牙娘」「玉面」「歩歩金蓮」は、祇女の置かれた状況に拘わらず、しかりした考え方、生き方が描かれます。それは、時として、社会を牛耳っている男たちの考え方とは、立場を異にするものでもあります。しかし、彼女らは彼女らなりのちゃんとした論理に裏付けられたものです。更には、男からは解らない情感に溢れたものでもあります。
ラストの二編「断腸」「名手」は、祇女も絡みますが、むしろ楽士を中心とした物語です。ここでも、祇女たちの優しい心情が描かれますが、それに絡む楽士の心情との対比があって、良くできています。
名手の名作集
★★★★★
著者久々の新刊である.休筆の間に何もなければ,と心配だったが著者は健在である.これをまず喜びたい.中華古今の妓女を主人公に,あやかしの別世界が展開される.その数七編.叛乱軍に殺される美女から皇帝について流刑に赴く美女まで,時代は北宋から南宋および明末清初あたりが中心となる.それぞれのイメージは明確この上なく,うっかり読み続けたらイメージにうなされて眠れなくなった.この点要注意.最後に置かれた作は,中唐の大詩人が聴く都の名人の琵琶の音の話(琵琶行)で,とりわけ趣深い.これらの作品には時としてかなり深い中華の歴史の知識が要求される,と言うか知識があった方が断然よく判り愉しめるので,日本語および中文ウィキペディアの利用をお勧めする.宋の徽宗が亡くなった五国城は現在のハルビン市の市域内にあることはこの手段で判った.とにかく著者の健在を祝う.推薦.
女性の本質、本性をさぐる
★★★★☆
中国の歴史小説はファンタジックで素敵です。それぞれのお話に、個性的で、凛とした女性が出てきて、遊女といえども、いえ、遊女だからこそ?憧れを感じました。私が一番好きなお話は「歩歩金蓮」でした。主人公の李師師の台詞は、かっこいい!