僧円空の壮絶な恋愛
★★★★★
著者は、前作『エミシの国の女神』で、いわゆる正史から抹消された謎の女神「瀬織津姫」のサルベージに挑戦した。なにしろ記録に乏しいこの女神の掘り起こしは、並の労力ではない。膨大な資料(史料)の精査を重ね、通常見逃しかねないつじつまの合わなさを、あたかも神経衰弱ゲームのごとく拾い出し、各々の行間を読み、その行間の想像でしかなかったものを可能な限り確実な語彙で埋めていったものが前作であったと思われる。
その過程の中で、円空の行動が、いみじくもその行間に足跡を残していることに気づいた著者は、あえて円空の足跡を自らの足で追い、前作とは違う角度から謎の女神を見据えたのがこの作品である。あたかもこの女神に恋心でも抱いているかのような円空の彫像の旅の真の目的はなんであったか。叙事的な前作に比べやや叙情的な仕上がりになっており、異端児円空の人間臭さを垣間見れる作品でもあると思う。