ミスターのミスターたるゆえん?―野球愛に満ちたミスター新書
★★★★★
ミスターこと長嶋茂雄のプロフィールをみて驚いた。「ベストナイン17回」。現役生活は17年間だから、すべての年でこの栄誉に輝いたことになる。ミスターが活躍した時代は日本が高度経済成長の只中にあったから、国民にとってミスターは日本(経済)の活気の歴然たるシンボルだった。2004年に脳梗塞で倒れたときのショックはそのシンボルを失ったような心情なのだろう。しかしミスターは復活し、その元気な姿をわれわれの前に見せてくれている。
本書は大変楽しい本だ。「本当に野球が好きなんだ、愛しているんだ」と感じさせてくれる。現役生活を知らない私がそう思うのだから、彼の1つ1つのプレーに釘付けになり、引退試合をテレビで見ては思わず涙した永年のファンにとっては懐かしさと同時に、自分にとってのミスターの存在を考えさせてくれるだろう。選手以上に監督に人気がある人は滅多にいないし、敵チームがホームランを打って悔しいながらも感心して「いいの、打ちますね〜」とか呟きそうな人も珍しい。元来がポジティブ・シンキングのミスターだから、本書で語られる内容(日本人選手のメジャー移籍や日本でのプレーオフ制度の意味など)は明るく肯定的だ。表現こそ悪いが、真剣に読むというよりは気軽に手にとって眺めるようなスタンスでよろしい。「野球談義」に花を咲かせよう。野球があまり好きではない人にも嬉しい一冊なのだから。
第8イニング(本書は野球にちなんで「イニング=章」となっている)では、グローバル・ワールドシリーズの構想(日本シリーズの王者とMLBの覇者との文字通りの世界決戦)に言及され、ミスターの夢がまだ続いていることを教えてくれる。実現は難しい。でもファンはどうか。常に野球ファンを熱くしてきた男だからこそ夢を追いかけたい。ぐっときた。ミスターのミスターたるゆえんが詰まった本書を手に取り、野球の世界をちょっと覗いてみてはいかがでしょうか?
長嶋茂雄は永久に不滅です。
★★★★☆
昨日15才の中学三年生に「長嶋茂雄って知ってる?」と尋ねると、「知りません。何をする人?」って言われました。その彼に「野球のルール、分かるの?」と質問してみたら、「よく分かりません。」と言う返事。昭和は野球は遠くなりにけりです。私は昭和37年生まれですので、長嶋選手の全盛期のリアルタイムな記憶はありません。しかし、長嶋選手の引退セレモニーは鮮明に覚えています。確かLPレコードにもなり自分のおこづかいで購入した記憶があります。「我が巨人軍は永久に不滅です」って台詞、ジーンときました。さて本書の「野球へのラブレター」は、長嶋さんの話し語りになっています。氏の例の甲高い口調を真似して音読みすると、一層面白みがわきますよ。氏の野球への衰えることのない愛情がほとばしり、氏こそが野球の神様からこの世に送りこまれた「野球の天使」だと思いました。長嶋氏を大リーグにとの話しがあったとき、当時の正力ジャイアンツオーナーが「長嶋茂雄に日本のプロ野球界は賭けているんだ」と言って断ったとの秘話が明らかにされています。正力オーナーの眼力に敬服し、また日本プロ野球の隆盛を築いた長島氏の想像を絶するご努力に深く謝意を捧げます。1番センター柴田・2番セカンド土井・3番ファースト王・4番サード長嶋・5番ライト末次・6番レフト高田・7番ショート黒江・8番キャッチャー森・9番ピッチャー堀内、そして監督川上。このメンバーでWBCやオリンピックを戦うことができたらさぞと、叶うことのないことをときどき夢みています。