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The Conscious Mind: In Search of a Fundamental Theory (Philosophy of Mind Series)

価格: ¥2,487
カテゴリ: ペーパーバック
ブランド: Oxford Univ Pr (T)
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意識するサーモスタット ★★★★★
 原書は、1996年の出版である。最先端の科学の成果に基づいているために、逆に今ではいささか古びている。
 第10章で、量子力学の解釈について議論が展開されるが、波動関数の収縮(本書では「崩壊」という言葉が使われている)をデコヒーレンス(干渉の消失)で説明する近年有力な解釈については、当然言及がない。
 決定的なのは、第9章のコンピュータが意識を持てるかという議論で、情報科学の基礎概念であるオートマトンまで持ち出しながら、量子コンピュータについて、全く触れられていない。当時既にそれについての議論が盛んであったことを考えると首を傾げる。2値コンピュータに対して、0と1が重ね合わせられた量子ビットを導入することは、コンピュータが意識を持てるかという議論に、多大な寄与をしただろう。
 
 驚くべきは、チャーマーズが、サーモスタットにも意識があると言っていることだ。もちろん、そう言う時、彼は高度な意識のことを指しているのではない。彼の言葉を借りれば、それは「閃き」のようなものとしてあるものだ。私には、これが一番面白かったし、反省もさせられた。意識と言われる時、自分の意識を無反省に思い浮かべてしまうが、もっと単純な意識もあっていいはずだ。意識するサーモスタットは、汎心論(どうか誤解しないで欲しい、チャーマーズもこの言葉を慎重に使っている)へと導くが、これはよく考えてみれば、彼の提唱する二元論からは、当然帰結されることだろう。
 彼の二元論は、特性二元論で、この世界を説明するために、二つの根本特性を据える。即ち、意識特性と物理特性だ。この本の副題は、『根本理論を求めて』となっているが、彼の野心は、意識の謎を解くということよりは、意識特性と物理特性の2次元で、この世界の謎を解くということにあるようだ。だからこそ、世界の謎を解くという意味での「根本理論」なのであり、最終章で量子力学の解釈が扱われもするのだろう。そうであれば、汎心論は、納得できる。
 
 意識特性を、物理特性では説明できない、物理特性に還元できないと証明することによって、チャーマーズは、根本特性としての意識特性を際立たせかつ守る。では、その根本特性としての意識特性の謎をどうやって解明していくのか?それが問題になるが、チャーマーズの基本戦略は、「コヒーレンス(干渉のし易さ)」という言葉に、言い表わされている。意識特性と物理特性は、干渉する。ならば、物理特性からその干渉を解明していけば、意識特性の謎は明らかになっていくだろう。私はこの方向は正しいと思う。ただ、その方法論は全く確立されていない。それはたぶん私たち読者も、考えていくべきことなのだろう。
意識のハード・プロブレムに正面から取り組む ★★★★★
心の哲学の新星にしてもはや第一人者であるチャーマーズの主著。
中身は、非常に論理的かつ堅実なものとなっている。
全体の構成は筋が通っていて、明晰である。


まず、チャーマーズは、問題を正確に設定する。
心の哲学には、取り組みやすいイージー・プロブレムと、非常に難しいハード・プロブレムがある。
イージー・プロブレムは、意識はどういう機能を果たしているか、という問題で、これは脳科学を駆使すればおそらく解決できるものである。
ハード・プロブレムは、どのように意識が生じるのか、という問題で、これは科学では解けない問題である。
そして、哲学者が取り組むべきは、ハード・プロブレムだと言う。
我々は、ハード・プロブレムをイージー・プロブレムにすり替えて説明できた気になっていることがしばしばあるが、ハード・プロブレムに正面から取り組まなければならない。

次に、機能的には普通の人とまったく同じだが、しかし意識を欠いているゾンビの存在が論理的に可能であることから、唯物論を否定する。
つまり、意識は物理的なものに還元することは出来ないということだ。

しかし一方で、意識が脳から生じていることは間違いないことだと論ずる。
意識は、「既存の」物理学では解けない問題だが、いやだからこそ、我々は新しい精神物理法則を捜し求めるべきなのだ。



チャーマーズの論は、かなり建設的であり、また心の哲学の核心をついているといえよう。
クオリアと物質は、論理的には付随しているわけではないが、しかしこの宇宙においては付随している。
そして、その付随の関係が何であるのかを探るべきだ、というのは、当たり前でありながらも、あまり論じられてこなかった方向性だろう。

ただ、現実問題では、心を探ることが非常に難しい(言語によって歪められた形での内省報告しかデータをえられない)ため、どういう付随関係が成立しているのかが解明されることは、永遠にないと私は思う。
そういう意味では、マッギンの神秘主義のほうに私の考えは近いのかもしれない。

また、チャーマーズは強いAIの存在を擁護する。
確かに、ある機能的状態が満たされているならば、精神物理法則のため、AIに意識が生ずるというのは正しいだろう。
しかし問題は、シリコンで果たして正しく機能的状態を満たすことが出来るのか、であろう。
AIは、シリコンであるというまさにそのことによって、「どのようになすか」はニューロンと異ならざるを得ない。
そのため、シリコンであることそのことによって、必要な機能(条件)が満たされないならば、原理的にAIは不可能となるだろう。

あと、論理的な厳密さを追求しているため、2章あたりが分析哲学のような内容で、かなり重い。
これから読む人は、そこら辺を注意してもらいたい。


スリリング!! ★★★★★
注目べき箇所は論理的付随性と自然的付随性の違いについて徹底的に論じた前半部分。結論は、本人も言っているように、デネットとネーゲルの中間辺り。それでも、意識を物理世界とひとまず切り離しかつそれと連続した形でポジティヴに考えていこうとするアイディアが実に新鮮。事実、米国東部の認知科学では「遺伝子の生き残り戦略」としてヒトの行動は説明できるが、ヒトの心として現れてくる「生き残りのためではない論理」、「超越的な道徳」、「遊興的で無駄な芸術」はうまく説明できない(ピンカーは著書の三分の一くらいを費やしそこから逃げて回っている)。経験、判断、信念など、すべてフッサールが論じているから、チャーマーズはいずれ超越論的現象学を参照するようになるかもしれない(チリの神経生理学者ヴァレーラは米国からフランスに渡り神経現象学なるものを構想していた)。米国でまったく曲解された形で受け容れられていたフランス実存主義経由の現象学が米国人ではなくオーストラリア人によって正統的に読み直される日が楽しみ。日本では、養老猛司や茂木健一郎などの能のないNO科学本が流行っているけど、すべて米国最新脳科学からのつまみ食い。誤解曲解しているだけにタチが悪い。