道家の聖典
★★★★☆
荘子は言うまでも無く、道教の始祖・荘周によってあらわされた書である。
老荘の教えと、しばしば老子と一体にその教えを示されるがように、人生を深く思索する教えとして尊重された。
荘子は三十三篇の構成であり、その多くは前漢時代ごろに成立したもので、荘子学派の研究の集大成と言えるものであるが
そのうち、この第一冊・内篇はその大半が荘子が自ら書いたものと考えられている。つまり荘子の原型にもっとも近い書である
荘子の内篇では、「北冥に魚あり、其の名をコンとなす」から始まる。
この魚は荘子が教えのたとえとして考えたものとされているが、後に実在が信じられたらしく
多くの書物で、その存在が示唆されている。
こうした事からも荘子が中国の歴史に与えた影響がわかるでしょう。
単に思想に留まらず、中国の歴史と文化を知るのには、老子や孔子と共に荘子の教えを触れなくてはならないと思います
岩波の荘子の構成は、原文と口語訳と現代語訳をそれぞれ書き出しています。
一読しただけでこの本の真価もわかるものではないでしょう。
それこそ本の中身を暗記するくらい何度も何度も読んで、そして本に書かれている事を考察を無数に繰り返し
初めて荘子の言わんとすることがわかると思います。
さすがにそこまではやれないと思う人も多いでしょうが、せめて何度か繰り返し読む事で荘子の教えを感じ取れることができれば幸いです。
存在について考えさせられます
★★★★★
ハイデガーが西洋哲学において「存在」について考察を重ねましたが、ハイデガーも「存在」いたる道を示すことしかできないと述べています。荘子においても道そのものについては言及がありません。きっと二人のみつめていたものは同じものなのでしょう。これは老子や列子とて同じこと。
我々は近代の中に生き、ある種の強迫神経症的状況に生きざるを得ません。これは本来おかしなことであるのですが、「存在」を忘れる事でのみでしかよりよく生きる事が出来ない、ニヒリズムの中に埋没してしまっています。
僕にも社会の状況を逸脱する勇気はありません。でも、荘子を読むことによって時々自分本来の生について、思索をうながされます。かけがえのない「生」、その「生」は有限でありながらも、その奥に潜む「存在」の神秘!驚きと共に自分の「在る」ということの玄妙さを、荘子一流の文章で味わうことができるのは幸せかもしれません。
遠くを見つめて自分を保つ救いの思想
★★★★★
中国の戦国時代、諸子百家の時代に道家思想を立てた一人、荘子によるとされて残されたテクストを編纂した著作。岩波文庫全四巻の第一巻は内篇全七編が収録されている。
よく孔孟の説に対して老荘の説というのを対置するが、確かに両者は対照的であるように思える。ここで読み取れる荘子の説は、孔孟の説よりも一段高いところ、遠いところを見通して自らを保とうとしている。登場人物として孔子とその弟子が出てくることが少なくないが、その場面での孔子は老荘の説が一段格調の高いことを認め、自らの立場が人間交際の域に踏みとどまっていることをわきまえる人物として描かれている。
そこで特徴的なのは、荘子の説が儒教の教えでは救われない逆境の人々を励ます性質のものであったことだ。訳注者の解説を読んでいくと、自分の足元を固めて身の丈を知って努力したところで苦痛に満ちた生き方しか残されていない人々に対しての処世術を示しているのかな、と感じる。社会や国家についての数々の思想もそんな人々への救いのきっかけになる思索として展開されていくものだが、荘子は視野を大きく取って、捉え方を換えることで生き方が変わることを示した。自分としては、儒教の説も荘子の説も個人個人の生き方をエンカレッジしていくという意味でどちらも魅力的なものだ。
また、論理学、名家の思想家の恵子との問答を読んでいくと、ロジックをダイナミックに突き詰めていくとイマジネーションやイリュージョンが不意に現れてくるという面白さがあった。ロジックを退屈なものにするのはそこでスタティックに安住しようとする振る舞いでしかないのかな、思った。
オクタヴィオ・パスの詩論「弓と竪琴」にも詩として引用されたほど文学性に優れ、単に読んでも面白い著作です。次巻も読んでみたい。
中国流《自己保身術》。
★★★★★
古来より、聖者は非業の死を遂げることが多い、と言われる。本書は、それに対して、《聖者が自分を守るためには、どうすれば良いのか?》を説いた、異色の自己保身術である。簡単に言えば、《乱れた世では、全てを捨てて、ただ自分を守ることだけを考えなさい》ということだろう。これは、参考になりました。21世紀を迎えた今だからこそ、広く読まれるべき、名著だと思います。
大切な本
★★★★★
一日ひとつずつをゆっくり読み進めています。
荘子と出会ってから12年くらいですが、老いていく過程で更に深く知ることができるように感じます。
この文庫が素晴らしい点はまず成り立ちから入り、原文、読み下し文、翻訳文となっていること。
原文の美しさを感じ、それを日本語として読み、翻訳文で理解を深める。
この楽しみ方は何度でも繰り返すことが出来ます。