満天の夜空が見える
★★★★☆
小説家×司書士
過去に心を置き去りにし、ペンをとれずにいる小説家。本質は優しくて一途な攻・君塚
自分の生い立ちに負い目があり、終始控え目で全てのことに遠慮して生きている受・喬
受けの喬(きょう)視点で話が進みます。
穏やかで物静かな性格で、祖母を亡くした悲しみを抱えたまま、日々を静かに暮らす司書士の喬。
他人の心の機微ばかりが気になり、否ということや自己主張が苦手。
そんな喬の前に現れた君塚という男。
顔を合わせる回数が増えるにつれ親しくなる二人に急展開がやってくる。
心に澱を抱え控え目な性格の喬視点のせいか、
動揺や迷いや葛藤はしっかり描かれているけれど、なんとなく静かな雰囲気が漂う文章。
半ば強引に君塚と付き合うことになったけれど、
君塚の人柄にしだいに惹かれていく喬の姿が見えるような心理描写に引き込まれます。
心に傷や澱を抱えていてる二人が出会うことによって見つけたものは
互いの過去を認め、癒し、慈しむ心。そして幸せな未来?
独りではどうすることもできなかった分厚い悲しみがポロポロと剥がれていき、
やがて満天の星が浮かぶ綺麗な夜空が見えてくる。
この本の要である一枚の絵が目に浮かぶようでした。
全体的にぼやけた感があったのが、最後になってどどっと形をなした感じのお話
★★★★☆
出だしからぼやんとしたイメージで始まり、いつのまにか二人は付き合っていて、あれあれ?という間に淡々と二人の物語が進んでいく。一体何なのか、君塚は何なのか、何となくすべてがぼやんとしたまま進んでいきます。
中盤過ぎてもそうで、え?これで何があるの?と思っていた最後の最後、きた!!
最後はどどっ〜と話が進んで、切ない感溢れてきます。
どちらのキャラも話と同様ぼやんとしているのですが、この最後になって君塚ってこういう人間だったんだとか、喬ってこう考えてたんだとか、一気に展望が開けるのが新鮮でした。
特に君塚の最後に見せる、「元恋人と違う性格に戸惑いながら、次第にそんな性格がいとしいと思えてきて、いつしか元恋人はただの想い出になり、今の恋人が本物になる」という思いが、ああ、恋愛ってそうなんだなと温かくなりました。
はっきり言って途中まではまあ普通。でもこの最後の展開がこの本を一気に印象づけてくれました。
いつも喬の弱い性格を窘めていた君塚が、最後はその喬に打ちのめされてたしなめられる。人間ってもちつもたれつね…としみじみ
絶望から再生へ
★★★★★
作家×図書館司書
H度 ★★★☆☆ 寝ている間に的な無理矢理もさらっとありますが、そんなに痛いものはないので大丈夫です。
二人の関係が徐々に深まっていくにつれて、行為の変化が愛情に思えて、見応えがありました。
読み応え度 ★★★★☆ 攻めの受けへの執着の秘密は、確かにわかりやすいです。
ですが、それを補ってあまりある文章力、二人のあったかい再生物語としての読後感の良さもあって、本棚に納めておきたい本です。
抑えたタッチの美麗な表紙絵に、一目惚れでした。作品のティストともよくマッチしていたと思います。
読んでいて情景が浮かんでくるような、まるでプラネタリウムを見ているかのように明暗を味わえる話でした。
どちらも過去に傷をもっていて、ハリネズミのジレンマを思い出します。
ようやく、二人の丁度いい距離感が最後にわかるような。
天涯孤独な喬は、表面上のつきあいだけで、誰とも深く関わろうとしない。
君塚とも、図書館に来るお客としてだけのさらっとしたつきあいで。
それでもその関係性でいくばくかの淡い好意を持ってはいましたが、君塚からの強引なアプローチがあって、ようやく喬に色がついたというか、生命感を感じるようになりました。
喬は過去のこともあって、自分自身を必要のない存在、誰からも必要とされていないものとみなしている。
対する君塚も、どこか存在感が空虚。
中盤から後半で、互いへの執着・熱情・欲望が芽生えることでの変化が、だからこそ、眩かったです。
きっと初めてだろうと思う程の深い恋におちて、葛藤し悩む喬の姿が愛おしくてなりませんでした。
出会えるべきして出会った二人が、再生する物語と感じました。
もうちょっと、キャラに存在感が欲しいかも。
★★★☆☆
「青空の下で抱きしめたい」で神江さんのファンになった身としては、
ちょっと正直最近の新作はパワーダウンに見えます。
素晴らしい繊細なな文章力は、さすがにハイレベルの
シャレードで入賞デビューした作家さんならではですが、
「First Love」にしろこちらの新作にしろ、「青空の下で…」で
読者をグイグイと引き込んでくれたキャラクターのパワフルさ、
生活の匂いがほとんど無いんですね。
攻めと受けがどちらも「不幸な境遇」というのも、普通の生活をしている
人間が読むものとして、どちらにも感情移入しにくい部分があり、
そういうギャップを埋められるのは登場人物の持つ生命力と思うんですが、
喬も君塚も、どことなく浮世離れしていて、実態がつかみにくい。
流されて生きている薄さに親近感を覚えられないのが、残念だと思います。
特筆すべきは挿絵のモノクロの美麗さ。カラーの色がダークで地味なのが
勿体無い気がします。
嘘はついてない。話していないだけ。
★★★★☆
神江さんらしい、心の傷や悲しみを隠して生きる受けと、それを愛してしまったちょっと強引・でも優しい攻め。
正直、よくあるエピソードに少しカンのいい読者さんなら容易に展開が予想できると思います。
が、淡々とおさえめの筆致が気負い無く読みやすいし、かえってお話のムードを盛り上げています。
欲を言えば、今作の攻めはもっと悪いヤツでもよかったカモ……受けに「恐い人」と思われていた時間がもう少しあった方が、後半盛り上がったカモ……。
あと、立石涼さんのイラストよかったけど、ヒゲのある攻めが見たかったな。(初めはヒゲあり設定で、途中剃っちゃう)それが心残り(笑)
前向きに生きていこうというカップルの、読後感いいお話でした。
クラチカ舎
★★★☆☆
【小説】図書室司書として働く天涯孤独な江上喬には、ずっと心の支えにしてきた小説があった。その著者である君塚映司を、そうとは知らずに年上の友人として慕っていた喬は、ある夜、酔ったはずみで彼に抱かれてしまう。「初めて会ったときから、どんなことをしてもほしいと思った」――戸惑う喬に、これまでにない強引さで脅すようにつき合うことを強要してくる君塚。やがて彼の真摯な優しさに身も心も惹かれるようになる喬だが、君塚の執着の秘密を知り――。▼詳細はタイトルをクリックしてご確認ください▼
空模様
★★★☆☆
☆9月24日発売☆シャレード文庫☆
[CUT:立石涼]