精神病理学的視線のもつ陥穽
★★★★☆
「薬のない時代にそれなりの成果」をあげた症例とされているが、「治癒」までに実に22年もかかっている。人生の大半を「患者」として生き続けなくてならなかったマドレーヌと、まがりなりにも数ヶ月で多少は苦痛が軽減し社会へ戻ることが可能な現代の精神科患者とどちらが幸福なのだろうか。
しかも、この「22年」という治療期間の長さは、献身や医学的興味などで偽装されたジャネの欲望にも一因があると思われる。飽くなき観察、写真撮影(!)、説得、手紙のやりとり(!!)・・。
精神病理学者には、ある意味ロマンあふれる羨望の「症例報告」かもしれない。しかし、果たして対応が(精神療法などという大げさなレベルではなく、もっと素朴な意味で)適切だったのか、そもそもマドレーヌ自身にとって「22年」は結局どのような時間だったのか、何か痛ましささえ覚える。
この治療報告は、当時どのように受け取られたのだろうか?