売れない作家・孝夫(寺尾聰)と有能な医者・美智子(樋口可南子)の夫婦は、美智子がパニック障害にかかったことを機に東京を離れ、孝夫の故郷・信州の山村に移り住むことに。がんに冒された恩師(田村高廣)や、難病でしゃべれない娘・小百合(小西真奈美)、そして阿弥陀堂で暮らす96歳の老婆おうめ(北林谷栄)など、村の人々との温かい交流の中、夫婦は生きる喜びを取り戻していく…。
デビュー作『雨あがる』で世界的にも絶賛された小泉堯史監督による第2作。奥信濃の四季を追うその映像は、この世とは思えないほど荘厳な美しさをたたえており、その中でささやかに生き死にしていく人々の静かで凛とした姿は、現代がなくしてしまった大切なものを思い起こしてくれる。虚飾を捨て、自然と共存することがいかに心地よいものであるかを、シンプルかつファンタジーのように濃厚な世界観で伝えてくれる、摩訶不思議な味わいに満ちた秀作である。(的田也寸志)
阿弥陀堂便り
★★★★★
景色が美しく、又夫婦愛が素晴らしい、あのような優しい心の人間に成りたいです。
自然と共に生きる
★★★★★
信濃のとても美しく壮大な自然が強く印象に残る。
人間が自然の中の一部であることを描いた作品だと思う。
自然の中に生き、いずれ死によって自然に帰る。
先端医療は日々進歩し、延命治療も可能になってきている。
変わりゆく都会がまるでその象徴だと思う。
進歩は重要なことだが、あまりそれに片寄ると人間はおかしくなり、体調を崩す。
それは自然の一部である人間の運命の様に感じる。
自然と共に生きる人々は、その生活から、自然に逆らわず、
生死も自然に委ねるものと学んでいる様に思える。
だから、心をそのまま表情に露わにでき、健康につながる。
これが本当の健全な生き方ではないかと感じた。
映画レビュー
★★★★★
この映画に興味がない人は、タイトルを見て宗教映画と思うかもしれない。が、さにあらず。これは日本ならではの四季折々に紡がれる、美しい山間の雄大な風景をバックに、人を思いやる気持ちを持った登場人物たちが織り成す究極の「癒し」の物語だ。(修飾語多いな・・・ワタシ)
主人公(樋口可南子)が、心の病によって失った医師としての自信を、小説家の夫(寺尾聰)の応援や村人とのふれあいによって、再び取り戻していく。
「生」と「死」の物語である。
医師である主人公は、患者などの「死」によって心を病み、子供達の「生」気溢れる姿に囲まれて安定を得、夫の師匠(田村高廣)の「死」に様に立ち会ってきっかけを貰い、知人でもある患者(小西真奈美)を「生」かしたいという思いによって立ち直る。そして最後、主人公は「生」の中心へと至るわけだ。
「生」と「死」の物語、などと言うと説教臭いのかと誤解されそうだが、そういう映画ではないのでご安心をw
この映画の特異で素晴らしいところは、悪意を持った登場人物が一人も出てこないところだ。それゆえ幾度再見しても心情的に淀む箇所が全くない。鑑賞後に残るのは透明な気持ちだけだ。ワタシが究極の癒しの映画という所以である。
黒沢明の助監督として長くキャリアを積んだ小泉堯史監督は、前作の初監督作「雨あがる」でも優しい眼差しを感じる映画作りをしていたが、原作があるとはいえ、完全に自分のコントロール下にある今作では更に一歩踏み出した印象。画面の隅々まで「優しさ」で包まれた映画となっている。
また樋口可南子は、美しく切り取られた風景に決して引けを取らない存在感を持った上で透明感を感じさせるという、相反する要素が必要なキャラクターを演じ切っていて見事。その他脇役も、今作で2003年日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を獲得した北林谷栄を始め芸達者が集っており、作品として隙がない。
タイトルといい作風といい全くもって地味な作品だが、見た後に暖かな気持ちになる秀作である。都会生活に疲れ、心がささくれ立ってしまった時に、ぜひ観て欲しい。オススメです。
雪月風花とともに生きていく人の美しさと逞しさ
★★★★★
何度見てもよい映画だ。
四季の移ろい、ベテラン俳優たちのしっとりとした演技。
自然と人が係わり合いながら、しっかり生きていくさまがよく表現されている。
北林谷栄演じるおうめ婆さんは、幾年月を地道に生きてきた老人のしたたかさと
揺るぎようのない心のさまが伝わってくる、素晴らしい演技。
演技というより、彼女こそおうめ婆さんそのものという感じ。
田村高廣演じる映画オリジナルの幸田先生は、禅の心や武士道精神に通じる一本筋のとおった日本男児。
田村らしい訥々した演技の中に時折見せる厳しさが、迷いを見せる主人公に指針を示す。
主人公を演じる寺尾聰、その妻を演じる樋口可南子らは言うまでもなくうまい。
淡々とした村の生活に溶け込みながら優しく妻のことを気遣う主人公(作家)を、寺尾はさりげなく演じている。
心の病を抱えながら、それに向き合い、一歩一歩着実に歩んでいこうとする健気で美しい妻(医者)を、
樋口が静かに演じている。
(樋口可南子を映画で見るのは本当に久しぶり。)
阿弥陀堂だよりの主人公二人は、医者であり作家である原作者南木佳士の人格が
二つに分けられ投影された人物であることはご存知のとおり。
南木佳士の著作の中で、私が初めて読んだ作品が「阿弥陀堂だより」であり、
また彼の作品中でいちばん好きな小説もこの「阿弥陀堂だより」だ。
そういう意味でも思い入れのある映画だし、原作小説は最近の私の原点になっている気がする。
小泉監督は日本人の自然観をうまく取り込み、きれいにまとめあげてくれている。
この映画には「雪月風花」がある。
まさに名作
★★★★★
地味なタイトルのために敬遠していたのですが、
見なかったことを後悔しました。まさに名作です。
静かに、深く染み渡る感動。
最近はやりの「泣ける映画」とはまるでレベルが違います。