全曲を聴くことで理解できる白鳥の湖
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この有名なバレエ、2時間以上の演奏を通して聞きますと、舞台のそれぞれのシーンをまざまざと思い起こします。
抜粋したCDも発売されていますが、良い所を集めたハイライト盤だけでは、なかなか全体像が理解し難いと思います。もっとも演奏だけですと、2時間以上ある全曲を聴き通すのは大変でしょう、実際には。バレエの舞台を見た方が、この「白鳥の湖」の全曲を聴くといいのかも知れません。
特に第3幕でのお城の舞踏室のシーンは、優雅な音楽に合わせて踊る姿を思い浮かべないとなかなかこの曲を理解したことにはなりません。チャールダーシュ舞曲のハンガリーの踊りや、スペイン舞曲やナポリ舞曲のシーンこそバレエのイメージが必要です。チャイコフスキーが工夫を凝らした場面です。ロンドン交響楽団の演奏は、そのあたりの曲の雰囲気をうまく伝えていたと思います。
第2幕の第13番の 「四羽の白鳥たちの踊り」の切れ味は良かったです。
第3幕のセーヌで演奏されるファンファーレは演出のせいでしょうが、もう少し大きくても良いですね。3回目の繰り返しは理想的でした。魔法使いのロットバルト男爵と娘のオディールが登場するところはとても印象的な入りですので、ここは満足しています。
フィナーレに向う悲しい情景は、チャイコフスキー音楽の真骨頂とも言える場面です。この悲恋がまた万人に愛される所以なのでしょう。
アンドレ・プレヴィンは映画音楽やジャズ・ピアノに定評のある指揮者ですので、このようなメリハリのついた舞台芸術音楽は得意とするところですので、安心して聴けます。
通俗名曲とは異なる、「白鳥の湖」の本当の姿に触れることができる最適なアルバム
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チャイコフスキーは、クラシック界屈指のメロディ・メーカーであり、その本領が最も発揮されているのが、三大バレエ曲のうちの、この「白鳥の湖」であり、「くるみ割り人形」だろう。
この「白鳥の湖」は、聴きどころを中心に収録したハイライト盤や組曲盤で聴かれるのが一般的であり、私も、アンセルメ指揮スイス・ロマンド管盤、フィストラーリ指揮コンセルトヘボウ管盤、ストコフスキー指揮ニュー・フィルハーモニア管盤、ムーティ指揮フィラデルフィア管盤を持っているのだが、聴きどころ満載のこうした抜粋盤なら、はっきりいって、どの盤で聴いても、まず、がっかりすることはない。
しかし、バレエなしの音楽だけで長時間付き合わされる全曲盤ともなると、やはり、盤を選ばざるを得ない。私は、評論家諸氏の評価が特に高い、このプレヴィン盤(「21世紀の名曲名盤」(2004年音楽之友社)第1位)とアンセルメ盤(同第3位)で全曲盤を聴いてみたのだが、やはり、このプレヴィン盤が、文句なしに素晴らしいと思う。
プレヴィンは、美しく柔らかな演奏を身上とする指揮者であり、評論家諸氏の評価はすこぶる高い人なのだが、リスナーからは、必ずしも高い評価を受けているとはいい難い。かくいう私も、これまでは、美しく柔らかな演奏とは裏腹の、大人し過ぎる演奏が物足りず、評論家諸氏の高評価に首を傾げていた。しかし、ここで聴くプレヴィンは、これまで私がCDで聴いてきたプレヴィンとは全く別人で、音楽が自然に美しく流れるだけではなく、アンセルメ以上に、実にドラマティックで、メリハリ豊かな演奏を繰り広げているのだ。この演奏で聴けば、157分という極めて長い演奏時間も、全く退屈することはないと断言できる。短い抜粋盤で聴き馴染んだ通俗名曲としての「白鳥の湖」とは異なる、「白鳥の湖」の本当の姿に触れることができる最適なアルバムとして、一聴されることをお勧めしたい。