人間博覧会
★★★★★
この小説……大変、奇妙である。
一言では言い尽くせないのだ。
ミステリーではない。ホラーでもない。サスペンスでもない。登場人物が放火したり、ダンプで人をひきつぶすが場面があるが、陰惨ではなく、どこか、気の抜けた炭酸のような印象しか受けない。
成り上がりものでも、犯罪ものでもない。
もちろんSFでもない。
では、何か?
私のつたない理解力であえて言うなら、人間展示ものといったところだろうか。奇妙な人間がわんさと出てくる。それぞれが、妙な価値観を持っている。それら、登場人物を観察する小説……というのが、本書を読んだ感想である。
登場人物の書き方がうまく、鬱屈した少年が主人公の場合、展開が重いことが多いが、本書は軽やかである。
普通のコカコーラに飽きたら、どうぞ。
19歳の自分
★★★★★
読んだ時、私も主人公と同じ19歳であったのである種の身近さを感じた。
19歳とは言わずとも誰もが一度は悩んだであろう。
自分はこのままでいいのか? 日常をだらだら生きて、何者にもならないまま死ぬ。そんなの絶対に嫌だ。
だからといって、なにか特別な才能があるわけでもない。別段何かに力を注いでいるわけでもない。普段の日常では出てこないが、ふとそんなことを思うことがあるはずだ。
主人公には偉大?な祖父がいた。彼は祖父のようになりたいと思った。しかしどうすればいいのかわからない。だけど、ただの『肉のカタマリ』になるのは嫌だ!
ありのままに言ってしまえばこれらのことをずっと声高に主張し続けるという内容である。最初の3分の2くらいは回想やらで全然話が進まなくて正直いらいらした。
が、主人公が悩んで辿りついた結論に私は強い満足感を得た。悩んで苦しんで、そして辿りついたところをどうして批判などできようか。
面白かったと思う。ちょっと主人公の考えが激しすぎてアレな感じはしたが、実際の人もつきつめればこのようなものだと思う。
正統な感じの小説に飽きてる人はどうぞ。ただ、あくまで青春小説、そして佐藤友哉が書いたことを忘れずに。19歳と20歳の狭間の人に特にお勧めである。
someone.
★★★★★
何者かになろうとしてあがく。
何者かになりたい。
それでも気づこうとしている、
自分が何者でもないことに。
何者にもなれないことに。
受け入れる。
簡単そうでいて、最も落ち着きたくない場所。
おお、
★★★★★
タイトルからして何だか胡散臭さがプンプンするが、
これが意外と良い作品であった。
具体的には「覇王」なる漠然とした、
それでいてなんだか権力のある存在になろうとする若者の話である。
特に表題作の出来は最高で、
こういった小説は良い意味で若者にしか、
それも現代のアニメやライトノベルなどに目配せをしている者にしか書けないであろう。
「覇王」とは比喩であり、
「作家」でも「ミュージシャン」でも「クリエイター」でも何でも良いのだ。
(しかしそれをあえて「覇王」として書ききった所に佐藤の個性がある。)
そしてその目標に向けて努力したり、邁進するわけではなく
文字通り夢想し、自己嫌悪に陥り、同じ所をグルグル回り、
時に恋愛や、目先の目標達成に逃げ、
結局肝心の目的には何一つ近づけないといった
現代の若者の心理を、焦燥を、上手く捕らえている秀作であると思う。
いろいろな人に是非、
読んで欲しい一作。
暗いけど面白いかな?
★★★★★
平凡な毎日を送る人間達を「肉のカタマリ」と定義して止まない主人公:僕。祖父と親友に憧れ、聞いてきた彼らの生き方なる持論に感化され。覇王になると目標を持つものの…ストーリーは全体的に「僕」の独りよがりがみっしりと詰まっていて、所詮夢想にふける平凡人だというのを露わにしています。結果的に祖父は、たまたま権力があるに過ぎない爺であり、親友は変態と猫かぶりの二面性な性格を持つだけの青年なのに。この僕とやらは、こいつらを神と崇めている訳。どんなに崇めようが、拝もうが他人になれないのに…。どんな人間でも「普通」と云う定義にくくられ、逃れなれない様を書いてると思うんですが?。
結局自分自身も平凡人で、変わらぬ毎日を送るのだと気付く僕。気付くの遅いよ。人間とは惰性・妥協・順応を繰り返し、人間集団のカテゴリーの中に収まる生き物、否、収まらなきゃならない生き物なんだよ。彼みたいな生き方したら、破滅しか道は残されていないんだよね。
結論からいって。