この本の最大の欠点は、皇帝の贅沢から語り始めてしまった点にあるだろう。皇帝の贅沢はさすがにスケールが大きくて驚かされたが、それに比べると貴族や商人の贅沢は、ささやかな楽しみ程度にしか見えない。拍子抜けというか、がっかりする。
また、贅沢の記録を並べ立て、批判するばかりで、なぜ贅沢が行われたかについては十分な説明を与えていない。肥大した欲望の結果であるとか、歴史の呪われた部分であると切り捨ててしまう著者の態度には疑問を感じずにはいられない。贅沢に関する数値(あきらかに誇張されたもの)をよく吟味せずに受け入れ、強調しているのも信頼性に欠ける。エントロピーの語の誤用はもちろん、文章からうかがわれる著者のいい加減な態度には首をひねってしまった。