ヨハネ・パウロ2世がユダヤ教との和解や共産主義への牽制を進めたのは、母国ポーランドで目撃したホロコーストや共産主義の圧制の記憶があります。本書で改めてそのことに言及している部分を読んで、あることを思い出しました。
「ローマ教皇とナチス」(大澤 武男著/文春新書)は第二次大戦中のローマ法王だったピウス12世について論じた書ですが、彼がナチズムに対してあまりにも寛容であった理由のひとつに、ドイツで聖職者活動を行なった体験があり、個人的にドイツに強い愛着を抱いていたことを挙げています。また無神論的共産主義への防波堤としてナチズムを頼りにしていたということも指摘しています。
このように若き日の体験が、各法皇のその後の行動を大きく左右する可能性があるのです。
だからこそ、今月(2005年4月)のコンクラーベが指名する人物がどんな体験を持つのかを注目するべきだと感じます。
有力候補の一人に中米ホンジュラスのOscar Andres Rodriguez Maradiaga大司教の名が挙げられています。私も首都テグシガルパのあるパーティでお見かけしましたが、彼は反グローバリズムの立場を取り、第三世界での債務問題などについても積極的な発言をしてきました。またヨハネ・パウロ二世とは逆にキリスト教の教義についてはリベラル派でもあり、彼がかりに法皇に選出されれば、バチカン外交も様変わりすることでしょう。
いずれにせよ、新法王が引き継ぐことになる前任者がどんな巨人だったのか、その生涯を短時間で知るには適当な書であると思います。