いまさらながらのヌーヴェル・シャンソン
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改めて聴くと、当時「ヌーヴェル・シャンソン」と言われ、硬直していたフランス音楽界に大きな風穴を開けたアルバムだったと再認識した。発売から既に20年近くたって今更ヌーヴェルでもないけれども...。当時、ロックやジャズ、ブルースが好きだと言うシャンソン歌手はいなかったという点において、明らかに伝統的な歌手とは一線を画していた。また、バルバラのファンである彼女は、原曲の雰囲気を壊さずに歌うことが出来る数少ない歌手でもあった。88年にリリースされたこのアルバムは、非常に伝統的かつ手堅い。ディディエ・バルベリヴィアンのトラッドな楽曲と、彼女の力強い声が上手にあいまって大ヒットとなった。注目すべきは、間違いなく「Mademoiselle Chante le Blues」だ。この曲は後日行われるライブ公演「tour de charme」で、重要な役割を果たす。「Souvenir de l'Est」ドーデの「最後の授業」ではないが、ドイツ語とフランス語の交錯する彼女の育ったアルザス・ロレーヌ地方のことがモチーフとなている。田舎くさいドサ回りの演歌歌手を連想させる内容だが、決して緩慢なものではなく切れ味がいい。ストレートで迷いや気持ちのブレは見られない。余談だが、10年ほど前に、パリのギャルリー・ラファイエットで彼女のサイン会があった。卒業旅行でパリに滞在していた自分は、運良くこれに参加することが出来た。ホールには若者から、年配の方まで長蛇の列であった。私の順番になってサインをしてもらったのだが、実際に見る彼女の姿はまさにミニョンヌ!!華奢で小柄、瞳が綺麗な女性であった。今でも色あせることなく心に焼きついている。