ほの暗い闇の底から
★★★★★
「私の交響曲は墓標である」というショスタコーヴィチの交響曲ですが、この演奏はその中でも極めつけの一つでしょう。
まずは「第9」、古典風の端正な交響曲ではありますが、一見して判断してはいけません。その底には恐怖の予兆とでもいうべきものが流れています。ケーゲルという指揮者を決して侮ってはなりません。恐怖は静かな顔でこちらをうかがっているのです。
そして「第5」、ここでこそケーゲルの本領発揮。まるで深い闇の底をのぞきこむようなこの音楽。なかでも聴きどころは澄んだ悲しさの第3楽章に続く最終楽章。冒頭のこれは「革命の生の高揚」などではありません。「恐怖の絶叫」「感情の爆発」です。続いてもその先には「勝利の喜び」などはありません。その喜びは一種の絶望と諦観とでもいうべきものであります。嗚呼何たる素晴らしさ!最後の鐘の音などはまるで悪趣味な冗談の様に聴こえます。
聴く者を恐怖のどん底に落とすであろうこの一枚。「癒し」などという言葉とはほど遠いものがありますが、そもそも「感動」とは人の心や価値観を脅かし、一種の恐怖を伴うものなのです。さあ皆さん、この闇の底から湧きあがる黒いマグマの様な「感動」に心震わせましょう。