子ども兵への対処法を考察し、廃絶への希望をも感じさせる秀逸さ
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子ども兵の存在自体は国連やNGOのパンフレット以外にも様々な書籍や雑誌に記され、「イノセント・ボイス」や「ブラッド・ダイヤモンド」等の映画にも描かれることで、人類史上最悪の戦争犯罪として広く知られ始めました。しかし本書は米国のシンクタンクで主に民間軍事産業研究に携わってきた軍事専門家の著書ということもあり、紛争の現状に関する記述の詳細さは他著を圧倒しています。組織が子どもを兵士にするプロセス(徴集、教化、訓練、実戦、戦術)、子ども兵によってもたらされる影響(戦争犯罪の増加と残虐化、紛争の長期化、自爆や人海戦術での使い捨て、紛争終結後の後遺症)、さらにはテロ組織に利用される子どもたちによる、中東和平への障害まで詳述した書籍は少ないと思います。
しかし本書が他著よりも優れているのは、現状の詳述にとどまらず、子ども兵に関する対処法が様々な側面から考察されている点です。子どもを兵士にさせないようにするために、子ども兵を利用する組織に刑罰を課し、組織の取引相手に経済的圧力をかける。戦場で子ども兵と遭遇した場合に、非致死性兵器や衝撃効果を利用し、組織が新たな子ども兵を徴集する区域を防衛する。武装解除と動員解除、心身両面の更正を経て、子どもたちを家族や社会に復帰させる。他著では見られないこれらの考察はいずれも紛争地の現状を知り尽くした人間のものであるだけに、取り入れさらに深化させる価値が十分あります。
政府側、反政府側を問わず、様々な戦争犯罪組織が子どもたちを利用するのは、子どもを利用するメリットが大きい一方で、追及される恐れが殆どないからです。逆に言えば、政治、経済、軍事等のあらゆる面で圧力をかけて追及すれば、犯罪組織を倒す事ができる。本書は重い内容ながらも、子ども兵の廃絶に貢献し、子どもたちが平和に安全に暮らす国や社会を築いていく上で、最後に希望をも感じさせてくれる秀逸さを持っています。
傑作!
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戦争に子供がどう巻き込まれるか。
こうしたテーマは、なかなか取材できない。
著者はその専門家として世界各国を舞台に丁寧に例をだし、いかにして子供が戦争にまきこまれるかを描く。
これは単なる理屈ばかりの話でなく、ふんだんな事例が記されているからこそ、説得力がある。
学者や研究者の立場からかけるノンフィクションの中でも、もっとも効果的かつすぐれた作品だと思う。
平和構築のためには何が必要か。「子ども兵士」という問題から考える
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冷戦後の「新しい戦争」。民族紛争や低強度戦争など呼び名は様々であるが、本書はそんなポスト冷戦期の戦争の特質を「子ども兵士」という現実を通して考察する。全世界80数カ国において確認されている「子ども兵士」たち。なぜ冷戦後の今、子ども兵士が激増しているのか。本書はその背景を鮮やかに描写していく。その上で最後に「子ども兵士」廃絶に向けた、著者による処方箋が提示される。
一般に、紛争を前にすると即、「介入は是か非か?」、特に、「武力介入は是か非か?」といった議論に陥りがちだ。結果、戦後の平和構築、特に社会に根付いた暴力への志向などといった社会的土壌をどうするかという問題にはほとんど議論がなされることのないままにPKOや武力介入という外科的な処方がなされ、状況をますます悪化させてしまうきらいがある。しかしながら本書は、冷戦後の紛争の特質として何よりもまず「子ども兵士」の問題を捉える。それがさらなる暴力の連鎖と地域秩序の崩壊の原因となっており、「子ども兵士」の根絶なくして平和構築はありえないという問題意識こそが本書の意義を際立たせている。
日本でも「国際貢献」が叫ばれる今日、「国際貢献論」を簡単に自衛隊派兵の問題に矮小化するのではなく、著者のように現代の世界が抱える絶望的なまでに深刻な問題をきちんと把握し、解決に向けて何ができるのか、常日頃よりきちんと考えておかねばなるまい。広く平和とか国際関係に関心のある方に是非お薦めしたい一冊である。
戦争の知られていないが、許されざる一面を知る
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前著『戦争請負会社』と共に本書も、広く報道されていないが重大な事実の優れた報告である。
この20年程の間に子ども兵は使われ始め、国連の試算では、50を超える国で少なくとも80万人はいると見られている。 子どもらは、誘拐・親に売られる・飯に飢えて・虐殺や家屋の破壊の復讐等の理由で、小学生低学年程度の年齢からいくらでも代わりのいる安上がりの兵として入隊する。 そして作戦行動をミスした者や脱走者を顔見知りの新兵に殺させるような恐怖・攻撃した町に対するレイプや食料の略奪による報酬・組織内での昇進や仲間に認められるといった動機付けと、アルコールや麻薬により死を恐れず、組織の命令に疑問を持たずに作戦を遂行する殺人マシンにさせられ、米軍特殊部隊も認めるほどの破壊力を、例えばウガンダの神の抵抗軍が200人から1万4千人の軍隊になったように強大にし、紛争の件数を増やし、長期化させ、何百万人もの死者や難民を生み出す温床となっている。
また、せんそうほうもルールも無視するのが常態化している為、シアラレオネの革命統一戦線に見るように、軍閥がダイヤモンド鉱山を勝ち取るといったギャングとかわらない目的で攻撃を仕掛けるので、タクシーの運転手から政府関係者まで誰一人反体制派が何を求めているか分からない紛争となり、解決を困難にしている。
更には、子ども兵を動員解除し保護しても、健康被害やPTSDなどの心理的被害を治癒させ、再徴収されないように隔離し、教育や職業訓練を持続的な補修指導を伴って行い、事業を始めるための小口融資に至るまで援助しなければ、再び武装グループに加入したり犯罪者となる可能性が残る。
勿論、子ども兵に反対する国連や地域での様々な協定が採択されているが、ようやく‘06年になって初めて軍事指導者が国際刑事裁判所に移送されたところであり、日本でも本書が幅広く人々に知られ、シアラレオネやアンゴラの「血のダイヤモンド」等、軍事指導者・グローバル経済と結びついた商品の不買運動のような行動をとり、扮装も子ども兵も根絶させねばならない。
利用される子どもたち
★★★☆☆
世界各地で戦争してるなんてテレビ画面の向こうの話。現実感なんてちっともない。
大半の日本人は、戦争に対してその程度の認識しかもってないんじゃなかろうか。私はそうなのだけど…。
日本に住んでいると死ぬまで戦争と無縁の人だっているだろう。それは幸せな事だと、能天気な事だと、こういう本を読んだ後は思う。
全世界的に18歳未満の『子ども兵』が存在する。現役兵は30万人以上。彼ら彼女らは誘拐されたり、強制的に徴兵されている。単なる数合わせのためではない。「従順」「大人に比べ見返りを求めない」「敵が躊躇する場合がある」など、『子ども兵』が有用だからだ。
本著には『子ども兵』の体験談がいくつも掲載されているが、どれもこれも目を覆いたくなるような内容だ。「チェチェン やめられない戦争」を読んだ時もそうだったが、私は戦争を知らなさ過ぎる。