教育行政の失策
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本書にサブタイトルを付けるとすれば「キャリア教育の誤算」だろうか…ここ数年、文科省は「若者の人間力を高める」をスローガンに、キャリア教育の導入に力を入れてきた。その最大の理由として「ニートやフリーターの増加」という社会問題があったわけだが、ここにきて「果たしてその原因は若者の側にあるのか?」という論議が浮上している。これはキャリア教育の大義が根底から覆される大問題で、本書はそうした観点に重点を置き、文科省および教育委員会の一連の対応を非難しつつ、現在、若者が強いられている劣悪な労働環境や、雇用主側の横暴について、核心を突いた指摘をしている。…教職に就く者は「学校」という資本主義社会とは隔絶された空間に身を置くため、往々にして世間知らずとなりやすい、しかし本書を一読すれば、そうした凄惨な労働現場の実態を知ることができるだろう(ただし、その情報を子供に伝えるのは、なるべく慎重にしたほうがいい)。…従来のキャリア教育は、子供の「やりたいこと(自己実現)」に偏重し、それを受け入れる社会の現状については、あまりに無関心だったと言わざるを得ない。これからのキャリア教育は、日本の社会が抱える構造上の問題を意識しつつ、労働という行為そのものの尊さや、人に役立つ喜びを伝えていくべきではないかと思う。その意味でも、本書はキャリア教育に携わる全ての教育関係者に読んでほしいお勧めの一冊と言える。