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教育の職業的意義―若者、学校、社会をつなぐ (ちくま新書)

価格: ¥819
カテゴリ: 新書
ブランド: 筑摩書房
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高等教育で獲得すべき能力 ★★★★★
ニーとなど教育社会学を専門と著者の専門領域から教育の内容を考え、「柔軟な専門性」を提唱する。この「柔軟な専門性」は、近年さまざまな領域で言葉を変えて必要とされている「社会人基礎力」「ジェネリック・スキル」などをベースにしたいわゆる「専門ある教養人」の育成であろう。本書では、特に高等教育と限ったものではないが、諸領域で高等教育で獲得すべき能力が集約されてきた感があり、その意味で興味深い。
社会制度も含めた改革が必要 ★★★★☆
 著者は,低賃金と現状からの脱出困難さに苦しむ非正社員と長時間労働に苦しむ正社員,現代日本の労働者の苦境を乗り越えるため,これまでの職業教育を企業に任せきった教育システムの再編を提唱する。

 著者は,近年の「キャリア教育」を,自分らしさの追求や自己実現の欲求のみを育成し,達成のための具体的手段を与えないものとして退ける。次に,社会への適応力をつける柔軟な専門性教育(ひとつの専門から,隣接領域への展開可能性を含む教育)と,社会への抵抗力をつける教育(労働に関する概念,法律的知識)からなる,「職業的意義」を持つ教育の必要性を説く。また,教育の職業的意義の有効性を十分発揮させるために,専門分野間,学校間,学校教育と外部社会,労働市場間等での,柔軟な往き来が可能となる柔構造の制度実現が必要であると述べる。

 これまでの職業的専門教育が行き詰まった理由は何よりも柔構造の制度がなかったことが原因であると思う。つまり,一度何かの職業を選択すると,以後の社会的階層が固定されてしまい,他の階層への移動が極めて困難であることから,生徒も親もあえて職業的専門教育を選択しない。(逆に,社会的階層が最上位に属する医学の専門教育は高い人気がある。)

 著者が指摘するように,教育的意義を持つ教育は,社会というパズル全体の中であくまでひとつのピース,しかし欠くことのできない重要なピースである。流動性が高まった現在の労働市場を利用し,技能を持つ労働者の育成と,彼らが適正な職務と処遇を受ける,適正な労働環境を築くことが,現在の日本の閉そく状態を打破するために必要であると感じた。
普通教育・一般教養重視を問い直す!! ★★★★☆
本書は、タイトルにある通り、主に学校教育における職業教育の意義を主張するものです。

高校や大学での教育の内容に関しては、従来、何かに特化した教育よりも、普通教育や一般教養が重視されてきました。
人間が持つ多様な可能性を開花させるものとしての教育を重視し理想としてきたのであり、職業教育など、専門的・
個別的な教育を行うことは、学校教育段階では、子どもの可能性を狭めてしまう、と考えられてきたのです。

これに対して、本書では、過去の日本が経験したような高度経済成長が望めない現代にあっては、雇用情勢が厳しく、
現に多くの非正規雇用などが増えてきており、しかも、このような現状を、過去の「日本的雇用」を復活することで
解決することは、もはや不可能である、との認識をもとに、学校教育を離れた若者がその後の職業生活において悲惨
な状況に陥らない(将来に希望を持てる社会を実現する)ための一つの方策として、高校以降の学校教育段階でも、
ある程度の職業教育を取り入れるべきだと主張しています。

特に興味深かったのは、職業的教育を取り入れることが、単に将来の職業人生を豊かにするだけでなく、人間と社会との
関係をも視野に置いているという点です。アメリカの社会学者リチャード・セネットの議論――職業的専門性を身につけ
ることは、仕事の内容に対するコミットメントという価値観を育むものであり、こうしたコミットメントは、あらゆる可
能性の中から自分で自由に自己責任の下に選択・追求することが求められる社会にあって、むしろ人々と社会の結びつき
を強めるものである――を紹介し、評価しています(173頁以下)。

他の箇所でも、一般的・抽象的で柔軟性の高い能力を育てようとする教育は、内容が無限定であるがゆえに、具体的に
必要とされる教育内容・方法を全く示すことができないし、また、子どもに対しても、どのようにして生きてゆけばい
いのかという切実な問題に対して何らの手がかりを与えることができない、と論じている(192頁以下)。

本書の主張は、急激な経済成長が望めない状況に直面した日本社会において、教育に期待できる一つの解決策の方向性を
指摘している点で、非常に興味深く、有意義だと思います。

他方で、当然予想される反論として、職業教育を取り入れることが本当に人間の可能性を狭めることにならないのか、特に、
普通教育を重視することの意義と問題点は何なのか、という点についての記述が少なかったのが残念です。また、職業教育
を重視する学校と、大学進学を見据えた(ある意味エリート養成を担う?)普通教育を重視する学校との関係のあり方など、
学校教育制度の全体像をどのように考えるのか、についても、本書は言及していません。

それでも、教育をどこか神聖なもの(子どもの成長を保障するものだ、社会状況に流されるべきではない)と捉えがちな傾向
に対する強烈な反論として、本書は重要であると思います。おすすめです。
ガラガラポンしたい気持ちは分かるが… ★★★☆☆
著者が本書で述べる「現状の(とくに高等)教育への不満」は理解できるのだが、「ではどうすればいいのか」がやはりよく見えない。もしかしたら「日本の教育をブッ壊して一から構築し直す」というのが著者の解答なのかもしれないが(そして同じくそう考える・そうしたい人はいっぱいいるのだろうが)、それはやはり無理筋であって、結局はオヤジの居酒屋談義(「オレに文科大臣をやらせろ」的な)と同等のレベルの議論である。

現状の教育に不満のない人などいまいが(そして繰り返すが著者の「不満」は理解できるし正当なものだとも思うが)、やはり改革は地道に、少しずつやるしかないのでは?と教育業界にいる者として自戒を込めて。
「キャリア教育」への反論として ★★★★★
本田由紀の新著は、
職業教育に関するものだった。
本田先生も自ら書いている通り、
自分の専門を越えて問題提起に挑んだチャレンジングな著作だと思う。

冒頭の「あらかじめの反論」がリアルで、
教育関係者、産業界、そして一般社会の職業教育への音痴ぶりをさらけ出してくれる。
短い章だが、ここは読みどころだと思う。

大まかにまとめると、
前半部分は学校制度の成り立ちから、職業教育についてに変遷を概観している。
就職に偏った(しかも粗末な)現在の「キャリア教育」(主に高校大学)を分析していて、
たいへん参考になった。

私はこれを大学で行われている現在のキャリア教育への反論として読んだ。
耳の痛いことが書かれているが、正論だ。

中盤に登場する、「家庭→学校→産業界」のトライアングルも説得力があった。
正社員と非正規社員の(結果的な)関係性についても目から鱗が落ちた。
もはや終身雇用は日本社会では成立しておらず、
その対処法として教育における職業的意義が重要になるという指摘が重要である。
こういう構造的な分析をしているところが他のキャリア教育本と異なる点だ。

後半は解決策に関する考察が中心。
解決策は別途考えられる必要があると思うが、
貧困問題の解決策のひとつとして、
職業教育の今後は戦略的に考えられる大事なテーマだと思った。