看板に半ば偽りありだと思います・・・
★★☆☆☆
「亡師に食べさせたかった…」という亡師が食べていないものは、亡師が「愛した味」と言えるのでしょうか。ここに載っているものを本当に「お取り寄せ」して池波先生は食べていたのでしょうか。見ればわかりますが、その意味で半ば以上、「佐藤隆介が亡師の思い出にひきつけて愛している味」であって、「池波正太郎の愛した味」とタイトルを冠することに疑問を覚えます。
仮にです。いちばん安いインスタントラーメンと、スーパーの野菜すこししか買えない暮らしにあるとします。それでも麺の茹で上げ具合に、野菜の刻み方に、一所懸命心を配って、インスタントラーメンとして最良にきちんとつくる。そして、「どうせ安いインスタントだから」などと卑下せずに、真面目に、しっかりと味わって腹におさめる。今できるかぎりのなかで精一杯のことをして、それが「うまい」。
池波先生を「食道楽」と呼ぶのなら(私は呼びたくありませんが)、そういう姿勢としての食道楽だった、と私は理解して、心から尊敬を込めて池波先生を読んでいます。そういう愛読者には、まったく無縁な一冊だと思います。
思うのは池波先生はやっぱり凄かったということです。「池波正太郎の…」とつければおそらく本は必ず一定度売れる。そうやって死後二十年、晩年には縁の切れていたお弟子さんをそれでも書かせ食べさせるだけの遺産を残された…そういう視点に立てば、温かい気持ちで眺めることができます。