九十七式飛行艇パイロットの戦記
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著者は、海軍の元パイロット。昭和六年の入隊から終戦までの14年間の戦記です。
筆者の軍歴は、横須賀海兵団で海軍機関兵として罐たき、鍛冶の訓練から始まります。その後、霞ヶ浦へ転属。21期操縦訓練生に応募してパイロットになり、以降様々な機種を乗りこなします。
・13式水上練習機で初飛行
・90式水上偵察機で三原山火口内のアクロバット飛行
・91式飛行艇での中国進出と集落爆撃
・コンソリデーテッド飛行艇、ダグラス飛行艇を横浜航空隊で性能評価
・97飛行艇でサイパン・パラオ・往復飛行
・97飛行艇で樺太国境威嚇哨戒飛行(寒冷地飛行)
・97式飛行艇12機編隊での雷撃訓練
・横浜航空隊での教官
・航空技術廠でのテストパイロット
・第二航空廠で空輸班として二式大艇などの受入れ検査と空輸
このように97飛行艇以外でも、様々な機種を経験をした後、97式飛行艇で南方へ赴任します。
南方では、アンボン島ハロン湾、セレベス島マカッサル、ジャバ島スラバヤと転戦しながら、激戦地のニューギニア、ダバオなどからの残存部隊や民間時の護衛機なしでの救出飛行、制空権を奪われた太平洋を北上しての本土への単独往復飛行、フィリピンに取り残された将兵と市民の単独救出飛行など数え切れない危険で多様な任務をこなします。中には、終戦直前に大量金塊やダイヤモンドをインドネシアから本土への輸送した経験や、揚子江九江への軍艦白鷹での艦砲射撃に遭遇するなどの陸戦にも遭遇します。
スラバヤで終戦を迎えますが、終戦後も連合軍の許可を得てガダルカナルなどからの将兵引き上げのためしばらくは飛行を継続します。
よくも一人でこれだけの経験をし生き残ったものだと思います。
二式大艇空戦記―海軍八〇一空搭乗員の死闘 (光人社NF文庫)も飛行艇パイロットの戦記です。これもあわせて読むと、パイロットによる飛行艇操縦の個性(台風や積乱雲の中を飛行する際、風に逆らわないで高空を飛行するパイロット(著者)と、可能な限り低空で風をさけるパイロットといった個性)の違い、武装や電探などの装備の違いなどもよくわかります。
何より、我が身を省みず一生懸命に戦った気高い精神と、無情な戦争の本質に触れることができました。稀有な体験を文章にして伝えてくださった著者への感謝でいっぱいです。
生き抜いたことが奇蹟
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翼長40メートルの巨体は、敵機から見れば格好の獲物に過ぎない九七式飛行艇。筆者はこの大艇を自分の分身の
ように愛し、手足のように駆使して、危険な輸送業務を遂行してゆきます。
取り残された基地要員を救出するために、敵の基地と目と鼻の先にある島への夜間飛行。
国内上空さえ危険になった敗戦の年の六月になっても、本土からシンガポール、スラバヤまで飛行。
当然敵機と遭遇しますし、絶体絶命の窮地に飛び込んで行くわけですが、そこをどう脱出するのか、手に汗握る
描写の連続です。
著者は単に飛行機の操縦術に長けているだけではなく、得られる情報を最大限に利用し、飛行する空域の地理や
時々の気象状況をよく把握して、それを生かして生き延びる方策を必死に探ります。その姿に心うたれます。
さらには七十キロ爆弾を携行して、敵潜水艦を発見、人の手で爆弾投下して撃沈。
( 著者が乗る九七式大艇は輸送機型で、爆撃装置はありません。)
20ミリ機銃を積んでいる時に敵戦闘機を発見して銃撃、撃墜。
戦闘機や偵察機がバタバタ落とされる危険な空域で、信じられない戦果をあげています。
それでも戦友を次々に失う筆者の心は晴れることなく、憎しみもないのに殺し合わなければならないつらさが
つのっていきます。
この本の表紙カバーには、火を噴きながら落ちて行く九七大艇の写真が使われています。
多くの搭乗員の運命に思いを馳せながら読んで頂きたい一冊です。
命あるもののはかなさ
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・表紙を見てはっとした。97式飛行艇が緩降下中。白煙を上げながら。敵機が攻撃後、撮影したのだろうか?搭乗員のその後やいかに?934飛行部隊(水上機隊)所属の飛行艇機長になった筆者は、アンボン島ハロンやマイコールで血を洗う激闘の日々を送る。奮闘し続ける水戦隊、敵潜水艦の撃沈、敵戦闘機・重爆撃機の撃墜といった幾つもの勝利。しかし執拗な敵の攻撃に苦悶・疲弊し、徐々に命を奪われていく友軍の姿に生のはかなさ、哀切を禁じ得ない。幾度涙に暮れたことだろう。心ある司令先輩に恵まれ、同年兵4人と支えあって、修羅場を生き抜いてきた。戦局悪化の一途をたどるなか、人員・食料・武器等の輸送にも細心の注意を尽す姿からも、戦争の怖さがひしひしと伝わってくる。ようやく迎えられた終戦の報に、予想外の水野少尉の自害。命を削って尽力してきた筆者の戦争は、こうして幕を閉じた。
非常に興味深く、面白い戦記
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筆者の北出大太氏は97式飛行艇のパイロットで、本書は氏の貴重な体験談です。
飛行艇というと戦闘機や爆撃機より地味な印象ですが、なんと著者は南方戦線で唯一終戦まで残っていた飛行艇のパイロットで、それだけに何度も死線を乗り切っていらっしゃいます。
雷雲の中を突っ切ったり、グラマンF6Fに追いかけられたり、とにかく目が離せず一気に読んでしまいました。
光人社NF文庫の戦記の中でも特に面白いと思います。