例えば、視聴率至上主義のテレビ業界のあきれた番組「フィア・ファクター」。素人が様々な我慢ぶりを競い合うという内容ですが、「400匹のネズミ風呂に入る」「ボウリングで倒せなかったピンの数だけ生きたカブトムシを食べる」といった悪趣味ぶり。
またアメリカの保守層の教条主義的な側面を伝えるアーカンソーの事件。8歳の少年が殺され、犯人として高校生ダミアンが逮捕されます。しかし彼が犯人であるという確たる証拠はなく、調べていくとどうやら彼が保守層の反感を買うような、黒Tシャツを着てメタリカを愛聴するGOTH少年だったことによるつるし上げの様相を呈してきます。裁判はダミアンに不利なまま進み、彼は今も獄中にあるとのこと。
それでも、痛ましさの中にもアメリカの力強さを感じさせるエピソードがいくつか紹介されています。
義父にレイプされ、10代でホームレスとなったフィービー・グロックナー。彼女は18歳の時に「このままではダメだ」と一念発起し、持てる絵の才能を生かして奨学金を得てカレッジに進学します。やがて自己の体験をもとに醜いものも隠さない冷酷なリアリズムに満ちた「ある子供の生活」というコミックで世に出ます。機会があればぜひ読んでみたいものです。
またダリル・ハンナの復活に至るこの10年のお話も、ちょっといかれた女の子だと思っていたハンナが急にとても愛らしく見えてくる内容です。
清濁あわせてアメリカ社会を複眼的に見ることの出来る、奇妙な魅力をもった一冊です。