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灯台守の話

価格: ¥2,100
カテゴリ: 単行本
ブランド: 白水社
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物語を物語ることに拘る作家。 ★★★★☆
彼女の作品の魅力を語ろうと思えば、おそらく本が一冊書けてしまうに違いない。それくらい多様で、言及すべき事柄にあふれているのだ。たぶん、こうやって三冊の本を読んできたぼくにしても、彼女の作品に隠されている数多くのたくらみをすべて回収してる自信はない。それほどに奥深く、隠喩に満ち、行の背後に潜む解釈が多いのだ。だからといって、難解なわけではない。これは訳者である岸本佐知子さんによるところが大きいのだろうが、書かれている文章は非常に平易でわかりやすいし、切り取られた場面が頭に入りにくいということもない。
だが、彼女の描く世界は寓意に溢れているのである。その感覚はかのティム・バートンの作り出す世界にも類似して悪夢的でさえある。それが作品世界に共鳴し、独特の雰囲気を醸し出す。そして、そこから紡ぎだされる物語は、反復と進化を繰り返し読む者の頭の中に長く居座るイメージを構築するのである。本書で語られるのは盲目の灯台守に引きとられた孤児シルバーの物語だ。だが物語を司る灯台守ピューが毎夜語る百年前の物語「バベル・ダーク牧師の数奇な人生」が侵蝕してき、やがてダークとシルバーの物語が交錯して、語り手がピューからシルバーに変わり、話はどんどん加速していく。物語を物語るという行為は、世界の創造にも似た崇高で確信犯的なたくらみに満ちている。そこには、愛の物語もあるし、裏切りの物語もあり、喜びの物語もあれば、失意の物語もある。そして、ただ一ついえることは、物語には決しておしまいがないということなのだ。『物語るという行為で人は救われる』というメッセージを発信し続けているウィンターソンの、これは再生の物語であり、真実を求める物語でもある。短い話ではあるが、やはりどこをとってもウィンターソンの描く世界が満喫できた。やはり、ウィンターソンはいいなぁ。これからもずっと読んでいきたい作家である。
自分の「物語」を探す旅 ★★★★★
「わたしたちの家は、崖の上に斜めに突き刺さって建っていた。椅子は残らず床に釘で打ちつけてあり、スパゲティを食べるなんて夢のまた夢だった」
最初のページでこの数行を目にすれば、斜めに傾いだ家のかたちを思い浮かべずにはいられない。
私生児として生まれ、すべり落ちないために母さんと体をひとつに結びつけて育ち、やがて灯台守見習いとなったシルバー。
灯台守のピューが夜ごと聞かせてくれるふしぎな物語の主人公、バベル・ダーク。
ふたつの人生が交錯し、物語にみちびかれて、シルバーは旅に出る。

風のひと吹きでちりぢり、ばらばらになってしまいそうな、あやうい物語の断片たち。
それでいて、夜の真ん中にそびえたつ灯台のような、強烈な求心力もある。
ふたつの相反する力をあやつり、ぎりぎりのラインで物語を成立させるバランス感覚において、ウィンターソンというひとはたぶん、天才なのだと思う。

「物語」という概念が、この小説のひとつの大きなテーマになっている。
かつて、地図の読めない海の男たちは、世界中にちらばる灯台を物語でおぼえた。
物語を語ることが、灯台守の大切な仕事だった。
やがて灯台は無人化され、物語は忘れられた。

ほんとうに? ほんとうに忘れられたんだろうか。
それは世界のどこか、バベル・ダークが見つけた岩の割れ目のような秘密の場所に、ひっそりと隠されているのかもしれない。
それを探しに出かけ、掘り出してメッセージを聴きとり、人びとが読むことのできる共通の記号、言葉に変換するのが、たとえばウィンターソンのような、作家の仕事なのかもしれない。
物語のチカラ。 ★★★★☆
私たちは
大好きなパートナーや家族や友人やご近所や職場の同僚や
この社会をともに育んでいる方々に、
いつも少しだけ多めに期待しているのかもしれない。
まぁ、自分のことを棚上げにして。

だから、時どきがっかりさせられ、
それがたび重なればとても疲れるし、
いたる所で自分がひき裂かれているような気分を
味わうことさえ少なくないだろう。
でも、そんなときは“いたる所”で物語を語るんだ。

『灯台守の話』の主人公シルバーは父を知らず、
幼くして母を亡くした少女として私たちに語りかける。
そして、すでにその光を必要としなくなりつつある時代の灯台で、
盲目の灯台守ピューと暮らし始める。

著者のジャネット・ウィンターソンは私と同じ年に、
英国北部の工業都市マンチェスターで孤児として?生まれる。
多くの場合“狂信的”との形容詞を付される
ペンテコスタ派を信仰する養父母に育てられたが、
同性愛者ゆえに家を追われる。

もうひとりの主要人物──ダーク牧師を含めて、
この物語に登場する人びとの境遇は幸せとはほど遠い。
しかし、その悲惨さが物語として語り直されることで、
やけに明るくなる。
それは、様々な職業を転々としながらも
独学でオックスフォードにたどり着く
著者の内面に通底しているものなのだろう。

少しだけ我慢して読み進めてほしい。
いつしか幸せな気分に包まれている自分に気づくはずだ。

Tell me a story, Pew.

What kind of story, child?
A story with a happy ending.
There's no such thing in all the world.
As a happy ending?
As an ending.

私たちが主人公のいくつかの物語だって、まだ始まったばかりだ。
no other words, ★★★★★
なんてきれいなんでしょう。

わたしはジャネットの熱いファンなので、レビューというかファンレターですけど。
彼女の言葉のすべてが心にビシバシと迫る。です。

マドンナやグゥィネス・パルトロウもファンを公言されているそうです、、、マドンナ、いい人やー!
人を愛し信じ続ける事で、人生は幸せに導かれて行くのだろう。 ★★★★☆
1985年「オレンジだけが果物じゃない」でデビュー以来イギリス文学界をリードしてきた女流作家ウィンターソンが2004年に発表した傑作長編です。著者は孤児として生まれ、その後紆余曲折があって苦労され、また90年代には批評家の誤解を招いて批判されるという辛い経験をされたそうです。本書は著者の分身のような孤児となった少女シルバーが不思議な盲目の灯台守の老人ピューに引き取られ、夜毎に100年前に生きた牧師ダークの人生の物語を語り聞かせられる事で貴重な何かを学んでいき、世間に揉まれて苦労しながらも、人生を乗り越えてゆく物語です。老人ピューとシルバーの会話で、ハッピーエンドのお話をねだるシルバーに、この世におしまい(エンド)などありはせん、と返すピューの禅問答めいた掛け合いの言葉が印象的です。私が本書の中でもうひとつ心に残ったのは、牧師ダークが独白する言葉「彼は自分の人生の異邦人だった」で、ダークは裕福な身で前途洋々たる人生を送っていながら、ふと心に懐疑の念を抱いた為に道を踏み外して迷い何時しかジキル博士とハイド氏の如き二重人格の悪党に成り下がってしまいますが、自業自得とはいえ急激に襲い掛かった運命の過酷さを思うと深い憐れみを感じずにはいられません。ダークとシルバーの人生の対比を考えると、幸せと不幸せはほんのわずかしか距離がなくて、例えば信じる事と疑う事が人を一瞬の内に光と闇に分けてしまうのだろうかという思いに駆られました。