読みやすい学術書
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著者は、1967年にカルフォルニア大学バークレー校にて、日本人で初めて犯罪学博士を取得している。それゆえ、海外の刑事司法のオンタイムでの情報量に関して著者の右に出る学者はいない。また、わが国の大学教授には希少な論文執筆数の多い学者であり、そういった意味でも一読に値することは間違いないだろう。
この本では、刑事司法に関する最新の話題を、著者が刑事政策専攻の学者向けに紹介する形式を取っている。しかし、そうでない一般の人々にこそ一読していただきたいと思う。論理的で読みやすいのが著者の文体の特徴である。新聞やメディアで言われている数々の話題について気になるトピックを拾い読みして欲しい。思わず引き込まれることは間違いないだろう。自分なりの犯罪観を醸成するきっかけになるのではないだろうか。
厳罰化の風潮に疑念を抱かせる本です
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犯罪学者である藤本哲也の最新著です。
彼の前著やエリック・シュローサーの「巨大化するアメリカの地下経済」(草思社)で指摘されていたように、単純な厳罰化は問題があるようですね。収容施設における過剰収容などは、むしろ出所後の犯罪を助長するのではないかとさえ思います。
今までは5年で出所できたものを15年刑務所に収容していたとしても、いつかは刑務所を出所して社会に戻ってくるのです。私たちが求めるべきは、そのときに彼らが行き場が無くて再び犯罪を犯すことではないはずです。彼らが社会に居場所を見つけられるようにすることは、社会防衛上も必要でしょう。彼らの犯した犯罪に対する憎しみの心と、彼らを単に社会的に排除しない、ということとは分けて考えるべきでしょう。それが実のところ我々の平穏な生活を維持するために必要なのだろうと思うのです。
受刑者に必要なのは、不満を抱きながら刑務所で過ごすことや、犯罪性向をより強く持つものとの過剰な接点をもつことではないはずです。やはり悔悟の心や被害者や他者への思いやりの心の醸成と、「手に職をつける」という実際的な対応でしょう。それがなければ出所後の再犯を防ぐことはできないと思います。
だとすれば、我が国の行刑政策が「社会復帰」を主体としたものであることは正しいことだと思うのです。
その点で、介助犬を育成することで、受刑者には愛情を覚醒させ、介助犬を実際に提供するというペット・パートナーシップ・プログラムは大変に興味があります。しかもその介助犬は本来野良犬など、安楽死させられるはずの子たちだというのですから、いわば一石三鳥というわけです。
実際に効果を上げていて、再犯率は何と0。こういう建設的な政策の存在を知れば、厳罰化という「威嚇による抑制」と「応報」という施策がひどく薄っぺらなものに見えてしまいます。