嘘をつき通して伝説になるという事
★★★★★
はったりも堂々と言われると何故か説得力を持ってしまうものです。
この作品はヨーロッパ中を震撼させた稀代の詐欺師にして錬金術師、カリオストロ伯爵の人生を綴った叙事詩と言える一冊です。
シチリアの貧しい不良だった一介の男が、いかさまの錬金術とフリーメイソンという道具を用いて当時最高の権力者や教養人を手玉に取っていく様は圧巻というしかありません。
最後は獄中にて無残に死んでいきますが、女帝エカテリーナを激怒させ、マリーアントワネットを窮地に陥らせ、モーツアルトの作品にも登場する事になったこの人物のスケール感の前には、最近はびこる中途半端な山師など全て小物に見えてしまいます。
嘘もつき通せば真実になるといいます。ですがそれを行うには並外れた胆力があるか、もしくは心が壊れているかのどちらかです。伯爵がどちらであったかは知る由もありませんが、時折こうした人が現れる事で世界は面白くなっていくのかな、と考えさせられました(自分は決して遭遇したくはありませんが。。)
稀代のペテン師? それとも、ヨーロッパの赤ひげか?
★★★★☆
新興宗教のカリスマ教祖、美女と野獣、金と権力者たち、奇跡の医術、不老不死、敵対者からの嫉妬と告発、詐欺まがいの行為がばれて高飛び、各国を転々とした挙句の獄死、そして伝説となった男の生涯、まるで現代のマスコミが喜びそうな話ですが、本書は、それらを地でいった18世紀の『冒険家』カリオストロの波乱に満ちた人生を、シチリアのチンピラ時代から、フランス、ドイツ、ロシア、イギリス、スイス、そして終焉の地イタリアまで、丹念に追ってゆく内容です。裸一貫で成り上がり破滅する人間像に、錬金術、オカルト、秘密結社、フランス革命が関係することで、カリオストロの生きた時代の猥雑さとその矛盾したキャラクターに、エンターテイメントと歴史の暗部を覗き見る面白さが加わって大変興味深く読めました。カリオストロの口八丁手八丁でトラブルを切り抜ける様子は、作者の文章の読みやすさもあって引き込まれ、図版の少なさを充分補っています。特に、マリー・アントワネットを失墜させた「首飾り事件」では、裁判の非難合戦でカリオストロも食ってしまいそうなラ・モット夫人の強烈さに圧倒されました。